キャリア・教育

2024.05.17 13:30

働きがいのある会社1位の立役者が「あえて何もやらない」を選ぶ理由

Forbes JAPAN編集部
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三村真宗(コンカー前社長)と 篠田真貴子(エール取締役)

社会人として、常に走り続けることだけが本当に正解なのだろうか。働き方改革の先駆者たちが注目する「キャリアブレイク」の効用とは。


「キャリアブレイク」という言葉を知っているだろうか。価値観が多様化するなか、無職や休職の期間を肯定的にとらえる概念としてにわかに注目を集めている。「働きがいのある会社」ランキング(Great Place To Work Institute Japan主催)で7年連続1位(中規模部門)を獲得しているコンカーで社長を12年務め、2024年1月1日の退任にあたって今後は「あえて何もしない」期間を設けると表明した三村真宗、1年3カ月の「ジョブレス」期間を経てエール取締役として活躍する篠田真貴子の対談を通し、その価値を考える。

篠田真貴子(以下、篠田):まずは12年間の社長業、本当にお疲れ様でした。

三村真宗(以下、三村):「やり切った」感覚がありますね。2011年、社長に就任してから「経費精算のない世界」という壮大なミッションの実現に向けて、電子帳簿保存法の規制緩和をリードするなど、事業と組織の成長に全力でコミットしてきました。企業成長には社員の働きがい向上が不可欠だと考え、企業文化の醸成にも熱意をもって取り組んできました。結果として、社員と約束した「5年後に米国以外でグローバルNo.1になる」「IT業界で最も働きがいのある企業になる」というふたつの約束も果たせた。そこで、次世代の成長を実感するとともに、会社の経営を託そうという気持ちになったんです。

篠田:日本でいちばん働きがいのある会社をつくってこられた三村さんが、これからしばらくの間、フルタイムの職に就かないと表明されたのはすごく意外です。

三村:まず、私はキャリア選択において、「財務基盤」「価値観」「キャリア」という3つの要素を強く意識しています。その前提で、今回キャリアの空白期間を設ける決断ができたのは、「財務基盤が整った」というのが大きな理由のひとつです。現在の収支だけでなく、将来の支出変化や資産運用収益も踏まえた緻密なシミュレーションを行い、安心して老後を過ごせる基盤を整えた。これにより、何かを選択するとき「迷わずリスクがとれる」ようになったんです。

次に「価値観」の観点でいうと、「ライフタイムプラン(人生設計)」に自覚的になったことも大きな動機です。これまでは、勤勉・倹約という日本人的な価値観に基づいて死に物狂いで働いてきました。しかし、「もう人生の “ 砂時計 ” が落ちてきているから、一日も無駄にできない」という恩人の一言を聞いてから、僕も「死」を意識するようになり、今を生きようと思考をシフトするようになりました。幸せを構成する要素が「健康」「時間」「お金」だとすると、今、自分に圧倒的に足りていないのは「時間」だけ。「じゃあ、働いている場合じゃないな」と(笑)。
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文=安心院 彩 写真=小田駿一

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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