キャリア・教育

2024.05.17 13:30

働きがいのある会社1位の立役者が「あえて何もやらない」を選ぶ理由

三村真宗(コンカー前社長)と 篠田真貴子(エール取締役)

「やりたい」を探す時間をつくる

篠田:「キャリア」という要素についても伺っていいですか。
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三村:どこかで踏ん切りをつけなければ「キャリアの停滞は免れない」と思ったんです。今の仕事は「できること」、「周囲から期待されること」ばかりになっていた。自らの「やりたい」に従って行動するには圧倒的に時間が不足していたんです。だから今回思い切って「キャリアブレイク」に踏み切ってみようと。日本では「やりたいこと」や「今を生きる」、それから財務基盤として「将来の支出変化」といった視点は忘れられがちだと思います。篠田さんも「空白期間」を経験されたんですよね。実際、いかがでしたか。

篠田:私は「ほぼ日」のCFOを10年務めてから「何もしない」期間を過ごしました。大学を卒業してからそれまで、とにかく仕事が好きで切れ目なく働いてきました。でも、当時の私は50歳で、あと20年働きたいと考えたら、子育ても一段落したこのタイミングで肩書を一度手放して、生身の「篠田真貴子」というひとりの人間として生きてみたらどうなるんだろうと思ったんです。

最初は退任して少しのんびりするつもりが、気づけば3カ月先まで友人や知人とのアポイントで予定が埋まってしまって。それで、思い切って「1年は何もしない」と周りに宣言しました。趣味の読書をしたり、文章を書いてみたり。結果的に1年3カ月に伸びましたが、「キャリアブレイク」を経験したおかげで、やりたいことや興味関心の輪郭が明確になり、社会にも貢献できる今の職と出合えました。あのとき立ち止まってみて本当に良かったです。
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三村:素晴らしいですね。私はまだすべての肩書を下ろしているわけではないですが、「キャリアブレイク」を宣言したことで、すでに心身ともに健やかになった感覚があります。無意識に背負っていた責任や重圧から解放されたというか。

篠田:いつまで続けるか、その期間に何をするか、決めてらっしゃるんですか?

三村:ノープランです。強いて挙げるなら、料理教室や絵画教室に通ったり、趣味として釣りを初めてみたいなと。大袈裟なことではないかもしれませんが、どれも時間がなくて実現できなかった。幸いにも名誉欲や権力欲は小さいほうなので、自分のペースで飽きるまで「やりたいこと」をやって、今後のことはそれから考えてもいいのかなと思っています。

篠田:一言で「キャリアブレイク」といっても、期間も意味合いも、その後のプランも、多様な在り方があっていいと思うんです。まだ日本では「立ち止まること」をネガティブにとらえる風潮がありますが、先の長い人生、一度「小休止」してみるのをひとつの選択肢としてもっておくことは大切ですね。


みむら・まさむね◎SAPジャパン、 マッキンゼー・アンド・カンパニー、 ベタープレイス・ジャパンを経て2011年にコンカー代表取締役社長に就任。24年1月1日に退任し、今後はフルタイムの仕事から離れることを表明している。

しのだ・まきこ◎エール取締役。2020年3月の同社参画以前は、日本長期信用銀行、マッキンゼー・アンド・カンパニー、ノバルティスファーマ、ネスレを経て、ほぼ日取締役CFO。退任後「ジョブレス」期間を約1年設けた。

文=安心院 彩 写真=小田駿一

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