炭鉱業からの脱却の中心にあるのが、南部シレジア地方だ。炭鉱業の隆盛とともに、同地方はポーランドで経済的に最も豊かな地域に数えられてきた。シレジア地方の1人当たりの可処分所得は、首都ワルシャワに次いで国内第2位の規模だ。
同地方が抱える炭鉱労働者の数は欧州連合(EU)の中でも最大で、7万8500人が炭鉱業に直接従事しているほか、2万1000人が間接的に業界に依存していると推定されている。同地方には、生産年齢人口の20.27%が炭鉱業に従事している郡もある。石炭からの脱却に向けては、業界に直接携わっている労働者だけでなく、間接的な雇用への影響に取り組むことも重要だ。シレジア地方では約2万957人の労働者が解雇の危機に直面しているほか、約3万210人が何らかの影響を受けると推定されている。
間近に迫った石炭からの段階的な脱却は、こうした労働者の生活だけでなく、この地方の文化的構造をも崩壊させる恐れがある。炭鉱業は過去何世代にもわたってシレジア地方を代表する産業であり続け、同業界に携わる労働者は高い社会的地位や強い共同体意識を享受してきた。炭鉱を閉鎖するに当たり、経済的な変化と地域の遺産保護との微妙なバランスをうまく調整していくことが、政策立案者に求められている。
さらに問題を複雑にしているのは、シレジア地方では人口が減少しつつあり、向こう数年間で大幅な労働力不足に陥る可能性があることだ。同地方では、年間の死亡数から出生数を差し引いた人口の自然減少数が1000人当たり5.76人に上り、さらに1000人当たり年間0.8人が国内の他の地域に流出している。こうした人口減少により、石炭からの脱却に伴う雇用喪失の影響は多少緩和されるかもしれない。だがその一方で、この地方に新しい産業や熟練労働者を呼び込む必要性が浮き彫りになっている。