キャリア・教育

2024.05.14 15:30

伊東 楓 x 坂上 忍 ──テレビの舞台から画家、経営者へ。挑戦を続けるふたりの転換点

伊東:経営者として、相談できる人はいるんですか?

坂上:いないね。ただ、俺は従業員が意見を言いやすい環境にして「どうする? どう思う?」って聞くようにしてる。創業1年目から社員たちに言ってるのは「理想は5年、もしかしたら10年かかるかもしれないけど、あなたたちに『さかがみ家』を背負っていってほしい」ということ。そのための良い土台をつくって引き渡すことが俺の役目であって、経営者として成功したいわけじゃない。

だって、この国では俺が生きてる間にペットの生体販売はなくならないから。だけど、いつの日かなくなって保護がいらなくなるように、挑戦を続ける。俺がやれるのは途中までだから、伝えるべきことは伝えて俺は消えるっていう考えでいると気が楽だね。

理想のキャリアのその先は

伊東:私はいつも“終わり“を考えながら生きているんですよね。さっき「アナウンサーには旬がある」と言ったのも、いつも辞めどきを探しているから。

坂上:「終わるには自分が納得するところまで行かないといけない」っていう尻のたたき方なの?

伊東:私は今、画家として飛行機に乗っていて「もっと高く、広い世界に行きたい」と思って上昇している最中。ただ、雲の上まで行って安定した後、いつかは降りないといけない。そのタイミングを自分で決められたら幸せだけど、そうもいかないですよね。降りた時に自分が本当に納得しているんだろうかと考えてしまいます。坂上さんは自分で着陸のタイミングを決めて、次の飛行機を乗り換えましたよね。

坂上:上昇するのはきっかけさえつかんだら気流に乗っていけるから、着陸のほうが勇気が必要だよね。俺の場合は、自分の事務所や番組のスタッフさんたちの生活も守らないといけなかった。だから、しばらくの間はMCを続けて「もう頑張ったよね」というところまでやり切ってスパンと降りた。そうじゃないと、ファーストクラスのいすって居心地がいいから、ずっと居続けちゃうんだよね。

俺は「自分で自分を嫌いになることだけはしない」と決めてる。この先、脳ミソも回らず大して芝居もできなくなったときに、周りの人からも気を使われてまだ良いいすに座り続けてると、自分が嫌いになっちゃう。だから、良いいすに座れたことは周りの人にも感謝して、ちょっと自分も褒めてあげて、自ら降りて地べたに座って、犬の奴隷になる(笑)。それが理想だよね。

伊藤:そこまで自分を客観視できるのはすごいです。私はまだ上昇中で、キャリア転身自体は偉いことでも何でもない。でも、世界で戦っている私の生き方を見て、誰かが元気づけられたらいいな。


いとう・かえで◎1993年生まれ。2016年にアナウンサーとしてTBSテレビに入社。21年に退社、現在はドイツを拠点に画家として活動する。24年1月には日本で3年ぶり2度目となる個展を開催した。

さかがみ・しのぶ◎1967年生まれ。70年、3歳で劇団若草に入団。数多くのドラマに出演し国民的子役となる。以降、俳優の傍ら映画監督・舞台演出家など幅広く活躍。2022年に一般社団法人「さかがみ家」を立ち上げ。

文=堤 美佳子 編集=田中友梨 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事