ヘルスケア

2024.07.06 17:00

他人の名前が「怖くて」呼べない、アレキシソミアを心理学者が解説

・代償戦略

自分の恐怖を隠したり補ったりするために、アレキシノミアの人は、他人について話す際、その人の社会的役割や身体的特徴、たとえば髪型や普段の服装などで人物を表現することがある。「私はいつも、『近所の人と歩いていました』『学友と会います』などと言い、下の名前を言いません」と別の研究対象者は述べた。代わりにメールやテキストメッセージに人の名前を書くことで安心感が増すと報告した対象者も複数存在した

「まるでパニック発作の始まりのように感じます。制御不能やイライラ、動揺、不快感、『もうすぐ私は注目の的になる』という感覚を覚えたり、講演をしなくてはならない時にあがってしまったり、ひどく落ち着かなかったり、恐ろしく感じたりします。実に不安定な状態です」と対象者の1人が自身の症状を説明する。

研究者らは、多くの対象者において、アレキシノミアがしばしば人間関係の親密さによって高まってしまうことも発見した。珍しい名前や発音の難しい名前、特別に美しいと考えられている名前の場合に症状が重くなることもわかった。声に出して間違えることへの恐怖が倍増するためだ。

「名前を呼ぶ代わりに、罹患者は身体接触や存在感、アイコンタクトなどに頼って会話を開始したり、名前を使う必要のある状況を回避したりします。これは、自信喪失や気まずさ、劣等感などによる心理的な緊張につながることがあります」と研究者らは述べている。

アレキシノミアの潜在的な原因

正確な原因はまだよく知られていないが、2023年の論文と2024年にActa Psychologica誌に掲載された別の論文は、この恐怖症が以下に挙げる現象と強く相関していることを明らかにしている。

・社交不安

アレキシノミアは、社交不安や社会環境における判断と棄却に関わる恐怖全般と相関がある。アレキシノミアのは、社会交流の中で名前を使うことに対して特に神経をとがらせたり自意識を強く持ち、他者が自分をどう見ているかを心配する。すなわち、社交不安は人間関係の緊張と相関がある

不安定な愛着スタイル

不安定な愛着スタイルは、若年期における一貫性のない育児に由来するものであり、アレキシノミアを悪化させる。多くの研究対象者が、愛着不安(親しくなることへの不安)や忌避行動を示し、他人の都合や応答性に対する不安感と不信感にもがき苦しんでいる。彼らはその感情に打ちのめされながらも、人との感情的親密さを切望している。それは相手の名前を口に出すことに関係があり、彼らはそれをすることができない
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翻訳=高橋信夫

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