人生というロングゲームにおいて、進歩や成長は、努力という長いトンネルの向こう側にある──。
部屋の窓から降り注ぐフロリダの日の光を背にこう語るのは、ニューヨークとマイアミに拠点を置く米マーケティングコンサルタント・ストラテジスト、ドリー・クラークだ。ベストセラー『ロングゲーム 今、自分にとっていちばん意味のあることをするために』(ディスカヴァー・トゥエンティワン、伊藤守・監修、桜田直美・訳)の著者でもある。世界的経営思想家ランキング「Thinkers50」にも複数回選ばれた。
世の中が短期思考であふれるなか、クラークが長期思考の大切さを語る。
──なぜ「長期思考」が重要なのですか。
ドリー・クラーク(以下、クラーク):短期思考は「reactive(リアクティブ=目の前の事柄に対応すること)」だが、長期思考は「proactive(プロアクティブ=先を見通した行動)」だからだ。
もちろん、短期思考が役立つこともある。例えば、激変する環境に素早く順応する必要があったコロナ禍が好例だ。しかし、短期思考は、波に身を任せて海を漂うクラゲのようなもの。理想の実現は難しい。一方、長期思考は、一方向に向かって高速で突き進むスピードボートだ。キャリアや人生で自分が目指す目的地にたどり着ける可能性が高い。
長期思考とは、最短で5年、最長でキャリア・人生全般を射程に入れた見方を指す。長寿時代にあっては、引退後も、人生の中心が仕事から家族や健康にシフトするだけで、「ロングゲーム」は続く。
原著出版から2年半がたつが、長期思考は色あせないトピックだ。なぜなら人生は、海流を縫って遠い目的地を目指すようなものだからだ。短期思考は水中に立つポールであり、すぐにたどり着くことができ、手っ取り早く満足感も得られる。だが、長期思考には強靭な意志が必要だ。努力が実を結ぶには時間がかかる。自信を失っても、「これは価値があることだ」と気を取り直し、前に進む必要がある。
不確実性が増している時代だからこそ、企業も個人も長期思考の下で目標やビジョン、希望をもち、「大志」を抱く必要性が高まっている。
──長期思考では目標設定が重要ですが、やりたいことがわからず、悩む人もいます。一方、目標があっても実現不可能なら問題だと、警鐘を鳴らす人もいます。最適な目標設定のカギは何でしょうか。
クラーク:高すぎる目標は自信喪失を招き、逆効果だ。しかし、人は一日にできることを過大に見積もる一方で、年間では過小に見積もりがちだ。5〜10年では、もっと控えめになる。つまり、短期目標と長期目標には、設定自体に大きな差があるのだ。
私は、長期的・野心的な目標を信奉している。10年後、世界は激変しているだろうが、大切なのは「こうしたい」という意思であり、進むべき方向性を示す「指標」をもつことだ。長期目標の設定で迷ったら、「うらやましい」と感じる人を思い浮かべよう。嫉妬は自分の理想像を示す有効なデータだ。
だが、将来の理想像を20代初めに決めたとしても、必ずしも、その目標を追い続ける必要はない。人生は一度きり。好きなことをやればいい。より良い機会を見つけたら、方向転換するのもいい。