キャリア

2024.05.21 13:30

人生はロングゲーム。成功の鍵は「余白」「集中」「信念」

「NO!」は「究極の武器」

──長期的視点に立った目標達成の方法を「余白」「集中」「信念」の3つに分けて解説していますね。

クラーク:まず、「余白」とは文字通り、予定表に空白をつくることだ。多くの人々が電話や会議に追われ、食事の時間すら満足に取れない。絶えず「実行モード」にあると、戦略的思考ができなくなる。人生を戦略的に考えるには十分な時間が必要だ。

意識的に時間をつくり、一歩引いて仕事を再考し、 「昨年立てたキャリアの目標は、まだ適切か」といった問いかけを自分自身に行うことが極めて重要だ。

やるべきことを書き出す「TO DOリスト」を否定するつもりはないが、「あれもこれも」と全タスクを同列に扱うのではなく、優劣をつけるべきだ。

また、ロングゲームにおいて、「ノー」という言葉は「究極の武器」だ。常に「イエス」と言っていたら、戦略的思考や余白の時間がなくなってしまう。最大の成功者は、長期ビジョンの下で将来を見据えて動く「プロアクティブ」な人々だ。そして、時間を管理できる人だけがビジョンを達成できる。

──次は「集中」について説明してください。

クラーク:「集中」のカギは「戦略」だ。「今、これをやる」「これは後回し」といった意思決定である。問題は、人々が正しい戦略を知らないことではなく、それを断行する「勇気」がないことだ。組織内で「これは見送ろう」と声を上げるには度胸がいるが、全員を喜ばせようとすることは最悪の戦略だ。

グーグルの戦略として知られる「20%ルール」も役に立つ。新しい挑戦に自分の時間の2割を使うというものだが、私たちは、思慮深いポートフォリオマネジャーのように、1〜2割の時間をスキル習得や人脈拡大に投資すべきだ。将来、そうした小さな投資が自分を救ってくれるかもしれない。

時間を戦略的に使って同時に複数の目標を達成することも重要だ。私は、別の州に住む母と過ごす時間を大切にしているが、実家近辺で開かれる講演会の依頼は低めのギャラでも引き受ける。母との時間には、お金と同じくらいの価値があるからだ。

──パート3「信念」の「戦略的忍耐」には、次のような記述があります。「指数関数的に成長するのは、テクノロジーとビジネスだけではない。人生も同じだ」。成長を実感できずに不安になる「欺きの段階」を乗り越えるには粘り強さが必要だと。

クラーク:ロングゲームは作物を育てるようなもの。どのくらい時間がかかるか、読めない。いつ、光が差し込む出口にたどり着けるか見当もつかないトンネルと同じだ。容易に希望を失ってしまう。

プロジェクトの成功や出世には時間がかかる。カギは、いつトンネルを抜けられるかわからないという「不確実性」に耐えること。結果が見えない「欺きの段階」を克服することだ。変化や進歩、成長は、努力という長いトンネルの向こう側にある。

──ロングゲームでいちばん大切なものは、「独立心」「好奇心」「立ち直る力(レジリエンス)」という「キャラクター(資質・メンタル)」だそうですね。

クラーク:「キャラクター」とは、強い意志と、人々から尊敬されるような精神的成熟さを指す。「成功するかどうかはわからないが、これは重要な目標だ」という自らの確信に基づき、たとえ周りからバカにされてもやり続ける勇気と強靭な意志力だ。

とはいえ、外的環境を無視して、やみくもに目標を追い続けるべきではない。環境の変化に応じて「現実的」に戦略を変えることがカギだ。

長期思考の下でロングゲームを志すのは、楽な近道に背を向け、結果が出にくいものを追い求めることだ。努力が開花し目標を実現できるまで、小さな進歩の兆しを見つけて自分を励まし続けよう。キャラクター磨きは人生の課題だ。人はベストな自分を目指し、向上し続けることができる。


ドリー・クラーク◎ニューヨークとマイアミに拠点を置く米国のマーケティングコンサルタント。著書に『ロングゲーム』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。経営思想家ランキング「Thinkers50」に2回ランク入り。

文=肥田美佐子 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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