キャリア・教育

2024.05.20 13:30

「効率化の罠」への処方箋。充実のカギは「今、この瞬間」

Forbes JAPAN編集部
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オリバー・バークマン|『限りある時間の使い方』著者(Oliver Holms)

キャリアや働き方に悩むなかで、早くやりたいことを見つけなければと焦燥感に駆られ、答えのない袋小路に迷い込んでいる人は少なくない。本当に人生を充実させるためのヒントをベストセラー作家が提示する。


効率性重視の「タイパ(タイムパフォーマンス)」時代にあって、ひときわ異彩を放つアンチ・タイムマネジメント本がある。ベストセラー『限りある時間の使い方』(かんき出版、高橋璃子・訳)だ。

同書を執筆したのは英国在住ライター、オリバー・バークマン。『HELP! 「人生をなんとかしたい」あなたのための現実的な提案』や『ネガティブ思考こそ最高のスキル』(いずれも河出書房新社、下隆全・訳)などの著書もある。『限りある時間の使い方』の原題は『Four Thousand Weeks』。たった4000週間という「バカみたいに短い」人生を充実させるカギとは何か、バークマンが語る。

──日本では効率性を重視する人が増えています。1990年代後半〜2010年代初めに生まれたZ世代も同様です。こうした生き方は夢の実現や幸福につながるのでしょうか。

オリバー・バークマン(以下、バークマン):私たちは、人生という限られた時間のなかで、「もっともっと」と、より多くを求める。「もっと生産性や効率性が上がれば、人生は良くなる」と考えるのだ。だが、これは勝ち目のない闘いだ。「これで十分だ」という境地には決してたどり着かないからだ。

私はこれを「効率化の罠」と呼んでいるが、効率を極めれば極めるほど無限にやることが増え、多忙さが増す。交通渋滞と同じだ。渋滞を解消すべく高速道路に車線を増やすと、さらに交通量が増える。つまり、終わりなき悪循環に陥るのだ。

私が『限りある時間の使い方』のなかで提案したのは、私たちには異なる価値基準が必要だということだ。効率性・生産性向上で人生が救われると考えるのは、永遠に訪れない「未来」を追い求めるようなものだ。「現在」より「将来」に価値を置くことで無力感にさいなまれ、充足感を得られない。

時間は支配できない

──「時間を支配しようとする態度こそ、僕たちが時間に苦しめられる原因」だと書いていますね。ストレスがたまり、「制約のパラドックス」に陥ると。

バークマン:限られた時間を思い通りにコントロールすることなどできない。その事実に背を向け、「神」のごとく時間を掌握できると考えること自体に問題がある。一日は24時間しかない。その制約を克服しようとすればするほど、必死に時間と闘わねばならなくなる。むしろ、時間は限られているという「制約」を受け入れ、制約と共生していくことが大切だ。

──本当にやりたいことを確実にやり遂げるための唯一の方法は、「今すぐに、それを実行することだ」と書いていますね。

バークマン:習慣の構築は三日坊主になって、最終的にやる気がうせてしまう。重要なのは「今日、有意義な行動を起こす」ことだ。目標達成で幸福感や自尊心を得ようとするのではなく、「今、この瞬間」に喜びを感じ、幸福感に浸るのが先だ。そのあと、生産性や出世を考えればいい。この差がわかるかな? ひとつは、幸せを求めて生産性を追い求める生き方。もうひとつは、「今、この時」に幸福感を見いだし、そこから始めるという生き方だ。

──好きなことで稼ぐ人が増え、情熱探しの風潮が強まる一方で、Z世代のなかには「やりたいこと」が見つからず、焦燥感に駆られる人もいます。あなたは『HELP!』の中で、情熱は「自ら創り出す」もので「見つける」ものではないと書いていますね。
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文=肥田美佐子 イラストレーション=オリアナ・フェンウィック

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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