起業家

2024.05.08 11:45

自己破産に拉致監禁 伝説のベンチャー本『あのバカ』から令和起業家は何を学ぶべきか

「彼を知らない学生はもぐりだ」。そう言われるほど関西の学生界を仕切っていた真田哲弥。関西学院大学時代に、合宿免許に学生ツアーを組み合わせたビジネスを成長させて学生ビジネスの神と呼ばれ、それを法人化したベンチャー企業リョーマ(1987年創業)は創業2年で売り上げ5億円を達成した。20代半ばには、後のiモードの原型にもなる電話番組による情報提供サービス「ダイヤルQ2」を考案し、ラジオ、テレビに次ぐ「第三のメディア」を掲げて事業を拡大。最盛期には8500番組を数えた。
 
「俺はこの国に第三のメディアを創り出した。そして26歳にして会社を店頭市場に公開し、一流企業の経営者という名誉を手に入れる」
 
真田はそう息巻いたが、アダルトコンテンツの増加により規制が強化され、番組数は激減。結果、経営破綻に陥り、個人で十数億円の負債を抱えた。契約が残っていた電話回線はテレフォンクラブに約1500万円で売却するが、移転手続きには1年ほどかかる。それを聞いて騙されたと思った業者(暴力団)は、ある日、真田の事務所に乗り込んできた。真田は、事務所前に止めてあった黒塗りのベンツに押し込められ、拉致監禁されてしまう……。
 
こんな映画のような人生を歩んだ真田は、その後もいくつも事業を立ち上げ、現在は59歳ながら自身が設立したWeb3企業でCEOとして経営を担う生粋の起業家だ。
 
インターネットビジネスの夜明け前、そして幕開けでは、真田に限らずさまざまな起業家たちが天国と地獄を味わった。その様子は2000年に発売された『ネット起業! あのバカにやらせてみよう(あのバカ)』に克明に描かれている。同書は2006年に絶版となっていたが、18年の時を経て、5月8日に復刊することが決まった。「起業」「スタートアップ」という言葉が市民権を得たいま、インターネットビジネス黎明期を切り開いた起業家たちの物語から何を学ぶことができるのか。

いまこそ、反骨精神を発揮するとき

今回の復刊プロジェクトの発起人になったのは、シード期の起業家に投資を行うベンチャーキャピタル「ANOBAKA(アノバカ)」代表の長野泰和。大学時代にあのバカを読み、スタートアップ業界を志し、新卒で真田が以前代表を務めていたモバイル・インターネット事業スタートアップKLabに入社した。
 
ANOBAKA代表の長野泰和

本の名前を自社名にまでしてしまった長野にとって、同書のなかで最も印象深かったのは「起業家たちのメンタリティ」だという。
 
「あのバカには、自身の事業で成功し、成り上がろうとする若者の反骨精神が描かれています。いまはSNSがあり、そこで自己表現することができます。しかし当時、自己表現や自尊心を高めようとすれば、事業で圧倒的な実績を出し、メディアや周囲から持ち上げられる必要がありました」
 
長野は、この反骨精神をいまこそ発揮するべき時であり、あのバカが令和の起業家に向けて発信するメッセージだと考えている。
 
なぜいまなのか?
 
日本は現在、歴史的な円安局面にあり、「安い国」として国力が低下していくのではないかという懸念もある。約30年にわたって賃金も物価も上がっていない。
 
「このまま行けば海外には遅れを取っていくことになります。戦後、復興というスローガンを掲げて起業家が生まれ、日本に成長がもたらされたように、再び日本を復活させるには成り上がりの精神を持った若い起業家が必要です」
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文=露原直人

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