D&I

2024.05.11 13:30

スタートアップからソーシャルへ「Mr.リモートワーク」、次の挑戦はD&I推進

キャリアのスタートはフリーター、テレアポのアルバイトだった。その後、リクルートHRマーケティング(当時)を経て創業期のリブセンスに転職し、事業責任として東証マザーズ上場に貢献。次に参画したDeNAでは、EC事業などの営業責任者を務めた。働き方ファームという人材採用支援の会社で起業し、これが後にキャスターと合流して石倉は「M r.リモートワーク」と呼ばれる存在になっていった。「アウェーに身を置くことを心がけている」と石倉は話す。その根底には、絶えず成長を続けなければ一気に貧しかったころの状態へ転がり落ちるのではという危機感がある。

一方で、次々と職場を変えキャリアアップすることを挑戦とはとらえていない。「僕はリスクに対する感受性が人より鈍いんだと思います。「これまでの人生で、何も背負っているものがないですから」。

働き方ファームを起業したのも、結婚して子供が生まれた時、場所や時間を選べる会社がなかったために仕方なく自分でつくったのだという。人よりも一歩を踏み出すハードルが極端に低く、興味にもとづいて気づけば行動している。それが結果的に、外から見て異端なキャリアの構築につながっている。

進路の判断にはもうひとつ、「ダサいことはしたくない」という軸がある。中学生のときに尾崎豊の曲を聴いていた影響だと石倉は笑うが、実力をつけられない高給なだけの仕事や役職に甘んじて働くのは、「老害化の始まりでダサい」と考え、新天地へ身を移してきた。そしてこの感覚は、財団での活動の原動力でもある。子どもの将来の選択肢を狭めてしまう可能性のある問題を、認識しながら動かないのは「ダサい」というのだ。

山田進太郎D&I財団は、35年までにSTEM(理系)分野の大学入学者の女性比率を28%にすることを目指し、現在は奨学助成金事業を運営している。石倉はCOOとして既存事業を伸ばしながら、D&Iに資する新たな事業の展開を推進していく方針だ。

取材の最後に、自身にとって「働く」とは何かと問うと「生活のための手段。それ以上でも以下でもないですね」と飾り気のない現実的な答えが返ってきた。ただ、石倉はこう付け加える。「どうせ働かざるをえないのだから、自分に興味があって夢中になれる、面白い仕事のほうがいいんじゃないかなと思います」


いしくら・ひであき◎リクルートHRマーケティング、リブセンス、ディー・エヌ・エー、起業などを経て2016年にキャスター取締役COO、21年取締役CROに就任。24年2月、公益財団法人山田進太郎D&I財団COO就任。

文=加藤智朗 写真=ヤン・ブース

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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