放射性物質の影響を受けたある家族に生後2週間のインナという女の子がいた。インナは青ざめ、呼吸が止まった。ただ幸いなことに、看護師だった母親が救急隊員の到着まで蘇生を続け、九死に一生を得た。
成人したインナは「4歳の時にイスラエルに引っ越し、本当に特別なことだったのだと思いながら育った。誰もが再び命を得られるわけじゃない。何か良いことをしなければ」と筆者に語った。
2度目の人生で「何か良いことをする」ために、インナ・ブレイバーマンは政治学を学んだ。「若者の純真さだったのだと思う。政治学を学べばもしかしたら中東の平和を実現できるかもしれないと考えていた」とブレイバーマン。だが、卒業後に政治関係の仕事を見つけることができず、ヘブライ語と英語の翻訳者として再生可能エネルギーの会社に就職した。
好奇心と才覚を発揮
働くなかでブレイバーマンは波力エネルギーの巨大な力に興味を持つようになった。米エネルギー情報局(EIA)は波力エネルギーについて「海や湖の水面を風が吹き抜けるときに波が形成される。海の波には莫大なエネルギーが含まれている」と説明している。EIAは、米沿岸に寄せる波が米国の2021年の発電総量(実用規模)の約64%を生み出す可能性があると推定している。ただ、イノベーションを起こそうとしている者にとって、波力発電は厳しい挑戦でもある。「私が波力エネルギーに取り組むようになったのは、巨大な需要があり、世界にプラスの影響を与える可能性が大きく、そして誰も成功していない分野だと考えたから」。ブレイバーマンはエネルギー分野などに取り組んでいる女性を取り上げるポッドキャスト「Electric Ladies Podcast」の独占インタビューで語った。「何と言っていいのかわからないが、運命的なものを感じた。2度目の人生を生きるチャンスを得て、世界初となる何かを作ることができるかもしれないと。そうなれば私の人生は価値あるものになる」自身のインナという名は「流れる水 」を意味することも知った。
克服すべき5つ課題
数多くの聡明なエンジニアやイノベーターたちが波力エネルギーの開発に失敗していることを知ったブレイバーマンは、失敗した理由の把握に努めた。そして5つの問題に行き当たった。「まず、当時存在したすべての技術を調べたところ、99.9%はオフショアのものだった。オフショアとは沿岸から4、5km離れているところだ」とブレイバーマン。これらのシステムには多額がつぎ込まれており、資金調達が立ちはだかる壁でないことがわかった。