経営・戦略

2024.05.04 14:15

中華圏の女性に大人気の「三喜雑貨」。老舗アパレル企業の業態転換と覚悟

「当社が長年培ってきた世界的な人脈、資本、店舗運営のノウハウといった経営資源を最大限に活用し、埋もれてしまっているブランドやつくり手の魅力を、独自の企画力・編集力を通じて世の中に伝えていきたい。そんな新規事業をこれから続々と展開していきます。事業領域はアパレルに留まりません」(熊谷社長)

その第一弾となったのが三喜雑貨だ。同店では、中国や台湾といった中華圏の若い女性の好みに合わせた日本の伝統工芸品や、気鋭の作家の作品を販売している。売れ筋商品の招き猫は5000円〜1万円と、雑貨としては決して安くはない価格帯。高額商品が売れるのも、訪日外国人向けの雑貨店ならではだ。


中華圏の若い女性の嗜好に合わせて制作された招き猫

伝統工芸では顕著だが、日本では“渋さ”を感じさせる作品が人気だ。だが、中華圏の若い女性たちが好むのは“華やかさ”である。三喜雑貨では、こうした中華圏の若い女性の嗜好にあわせて限定作品をつくり、展開している。

たとえば前述の招き猫は、キラキラした装いとなっている。従来の伝統工芸では選ばれない可愛らしい雰囲気の布地を用いながらも、職人の手による“ホンモノ”の仕上がりとなっている。伝統とモダンを融合した招き猫をつくったのは、江戸木目込人形の節句人形を手がける柿沼人形(埼玉・越谷市)。螺鈿(らでん)の象嵌(ぞうがん)、彩色二衣重などの独自技法を追及し、伝統工芸の世界で挑戦しつづけてきた人形店だ。

また、東京・谷中の念珠店「ひいらぎ」は珍しい石や木でデザインされた「おまもりブレス」を制作している。ケヤキの木珠が特徴的で、木彫りの伝統工芸士の中でも仏像を彫ることを許された仏師が、心願成就を込めて削ったものだ。元々同社の人気商品だったが、三喜雑貨に卸す商品は、中華圏の女性が好む色合いの限定商品だ。


ひいらぎの「おまもりブレス」

日本の伝統工芸は衰退傾向にある。経済産業省の調査によると、2001年度に2000億円程度だった生産額は2020年度には870億円まで落ち込んでいる。三喜雑貨は伝統工芸市場の復活の一助になることも目指す。

若い世代の嗜好の変化も

伝統工芸品に加えて三喜雑貨の軸となっているのが、中華圏で人気に火が付きつつある気鋭の作家たちの作品だ。その裏には、中国の消費傾向の変化がある。三喜雑貨のプロジェクトを統括する西山香誉子氏は次のように分析する。
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文=下矢一良

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