日本企業のヒト・モノ・カネ・情報などの経営資源を適切に分配し、企業成長に結びつけるはずの従来型のERP(基幹系情報システム)が、そろそろ限界を迎えようとしている。サイロ化しているデータの突合を紙と人力で補っていることが多いからだ。その結果、変化が早い現代では、ビジネスの意思決定が遅れてしまう。それがグローバル市場ならなおさらだ。そうした日本企業の課題に対して人工知能(AI)×機械学習(ML)機能をネイティブに組み込んだクラウドシステムで答えを出すのがWorkday(ワークデイ)だ。
2024年2月19日付で同社日本法人 代表取締役社長に就任した古市 力(以下、古市)に、人財の力を高め、仕事を力強く推進し、ビジネスの絶え間ない前進を可能にする同社のソリューションについて聞いた。
サイロ化したデータが阻む迅速な意思決定
「オンプレミスを含む従来型のERPシステムの問題は、3つあります。1つ目は、部門ごと、システムごとにサイロ化したデータが照合・分析を困難にして、グローバル市場で不可欠な迅速な経営判断を妨げてしまうこと。2つ目は、システム変更がしにくく、変化したビジネスに合わせたアップデートができないこと。そして、3つ目は年1、2回のビジネスプランニングにのっとっていない条件が加わると適応できないことです。これでは近年加速する市場や環境の変化に、データに基づいた迅速な対応ができません」古市は理系出身で、日本およびアジア太平洋地域を中心に、数々の外資系IT企業をわたり歩いてきた。セキュリティSaaSベンダーのTaniumやクラウド/仮想化ソフトメーカーのVMwareでプレジデント職を歴任するなど、世界のIT事情に造詣が深い。そんな古市が、Workday日本法人のトップに就任したのは、日本企業の10年先を見据えたからだという。
「すでに日本は超少子高齢化社会を迎えています。今後国内企業が躍進するためには、グローバル全体を見据えた人事戦略やシステム設計は必要不可欠です。ただ過去のレガシーを踏襲してきた現在のERPシステムではスピード感やグローバル対応に無理がある。そこで世界標準のWorkdayプラットフォームの導入・推進に尽力したいと考えたのです」
Workdayがグローバルで生み出してきた革新
ではグローバル市場に君臨するWorkdayの財務管理・人財管理プラットフォームには、どのような特徴があるのだろうか。「Workdayはクラウド上で生まれたクラウド専業ベンダーです。Workdayのプラットフォームは最初からオープンで拡張性があり、企業のビジネス変化に合わせて対応できるように設計されています。単一のセキュリティモデル、単一のユーザーエクスペリエンス、単一のコミュニティで構成されているので、財務や人事などの枠にとらわれることなく、すべてのチームメンバーがデータを分析・活用し、迅速に意思決定できるのです。無駄な作業が生じないため、業務の効率も最大化されます」
さらに、AIやMLは、適切に活用することで企業が進むべき方向を示唆してくれる存在になると古市は強調する。
「このプラットフォームは、後からAI・MLを組み込むのではなく、開発時点で組み込まれているのが特徴です。ドメスティックに構築したものを拡張するのではなく、最初からスケーラブルでグローバル対応が可能な設計思想なのです。30階建てのビルを50階建てに増築するのは無理がありますが、Workdayはもともと何階建てにでも柔軟に変えられる設計なのです」
しかし、どんなに優秀なAIでもデータがなければ性能を発揮できない。その問いに対しても古市は答えをもっていた。
「Workdayではセキュリティを厳格に担保しつつ、年間8,000億件ものトランザクションに基づいたAIモデルによって、膨大かつクリーンな財務・人事のデータセットを有しています。だからこそビジネスデータの分析、予測など、精度の高いソリューションを提案できるのです」
今やグローバルではネットフリックス、General Electric、日立製作所ほか Fortune 500企業の50%以上、業界、さらには規模の大小を問わず1万社以上の顧客を得ているWorkday。世界的に支持される理由を端的に挙げると、顧客中心のアプローチと絶え間ないイノベーションということになるだろう。しかし、それだけではないと古市は振り返り、自身のキャリアの醸成を追走しながら語り出した。
「キャリアのスタートは顧客を知るための営業職でした。当時は数字のプレッシャーは大きかったものの、徹底的に論理的思考力を鍛える環境がありました。人間関係の築き方、さまざまな営業手法、フレームワークから経営層を説得するアプローチまですべてをロジカルに構築する習慣がついたのです。また、パートナーやアライアンス、OEMビジネスに従事した経験から企業のパートナーエコシステムをつくる重要性を国内外で学んできました。
VMwareやTaniumではクラウドシフトのど真ん中にいたので、世の中が変わる瞬間を間近で経験することができました。技術の積み重ねが新しいイノベーションを生み出すのを実感したのです。今振り返れば、こうした学びを得られる環境こそが大事だったのだと思います」
世界的に人財の争奪戦が続く昨今、そうした人財を取り巻く環境への投資こそが成功への近道だと古市は感じている。
「人財のリスキリングやアップスキルを支援し、データに基づいた意思決定を行いながら、従業員エクスペリエンスをも向上させることができることが、Workdayがこれほどまでに支持される理由なのです」
日本企業の未来は、欧米人財戦略との融合が鍵
最後に古市に将来展望を聞いた。「日本企業がグローバルで勝ち抜く未来を考えたとき、欧米のジョブ型人財戦略にこだわる必要はないと考えます。
スピード感と責任をもって新しいことをやっていくにはとても良いのですが、突然湧き起こった課題に対して、職責が明確に線引きされた体制だと、網羅しきれなくなることもあります。その点、日本の企業文化では文字通りワンチームで事にあたるので、そうした業務は誰かがフォローする。
私たちは、そうした日本のチームワークという強みと欧米のジョブ型をかけ合わせて、新たな働き方のイノベーションを起こすべきなのだと思います。もともと日本企業は人財育成、リスキリングなどの意識も高い。そうした人財へのアプローチを含めて、私たちのプラットフォームを活用していただければと思います」
ワークデイ
https://www.workday.com/ja-jp
ふるいち・ちから◎日本・アジアのIT業界に25年。営業を経て、セキュリティ、クラウドサービスを手がけ、VMware社の日本・シンガポールでVPなどを歴任。2024年2月19日付でWorkday日本法人社長に着任。