『オッペンハイマー』は2024年のアカデミー賞を、賞レースから「戴冠式」に変えたと言ってもいい。オッズメーカーは授賞式の前から「原爆の父」の伝記映画が多数の賞を獲得することを予想しており、結果はまさに、そのとおりとなった。
同作は、過去20年に作品賞を受賞した映画のなかで、興行収入が最多となっている(年数を限らずにみても『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』『タイタニック』に次ぐ3位)。
作品として高い評価を受けるのと同時に、興行的な成功を収める映画はごくまれだ。それを実現した映画は、関わった多くのスタッフのその後のキャリアを後押しする。『オッペンハイマー』はそうした作品の1つとして、「ハリウッドで最も稼ぐ監督」としてのノーランの地位を固めるものとなった。
「Aリスト」に名前を並べる俳優たち顧客に持つあるマネージャーは、ノーランは今、「世界最大の映画スターだ」と話す。確かに、現在53歳のノーランは、それらのスターたちと同じくらい、稼ぐことができる。
フォーブスは、ノーランはこの作品で、興行収入の15%を受け取る「バックエンド」契約を結んだとみている。スタジオが経費を回収する前に、公開初日からの興行収入のうち15%が、ノーランの報酬になるとみられる。
家庭向け映像ソフトの売上高、配信サービス会社がスタジオと最初に結ぶライセンス契約料などからノーランに支払われる金額は、彼がエージェントや弁護士に支払う料金およそ8500万ドルを除いても、約7200万ドル(税込)。それがノーランの手元に入ると推計される。
この金額はさらに、配信サービスの契約期間が切れた後の再契約や、将来ほかのライセンス契約が締結されるごとに上積みされていくことになる。
キャリアのピーク
過去にもたびたび、監督のほか脚本家としてもアカデミー賞にノミネートされてきたノーランのキャリアは、今またピークを迎えている。理論物理学者の人生を一部モノクロの映像で描いた、上演時間3時間の作品で、大ヒットを生み出している。『インセプション』『インターステラー』そして『オッペンハイマー』と、無謀ともいえるコンセプトの作品で、観客を作品に引き込むスペクタクルを作り上げることに秀でているのが、ノーランだ。
初めてワーナー・ブラザースと制作した2002年公開の『インソムニア』以降、同スタジオとの契約によって制作した映画はすべて、興行収入だけでも1億ドル以上にのぼっている。
その後の7作品のうちの6本、なかでも『ダークナイトトリロジー』の2作目以降、『ダークナイト』『ダークナイト ライジング』の興行収入は、全米で5億ドル超となった(7作目の『TENET テネット』は、新型コロナウイルスのパンデミックが猛威をふるった時期に公開。それでも世界興収が3億5000万ドルを超えた)。
これらの作品の実績によって、ノーランはワーナー・ブラザースにとって最も重要な監督となっていった。