ファッション分野での生成AIの活用が進んでいるところに感動したのだが、実は日本でもイッセイ ミヤケがAIを活用したジャケットを作っていることをその1カ月後に知った。CESでの感動よりも自分の愛する、しかも日本が世界に誇るブランドですでにAIを活用したプロジェクトが進んでおり、市場に出てくるということに胸が躍る。
AIとともに作り上げたジャケットはA-POC ABLE ISSEY MIYAKE 『TYPE-IX Synflux project』。廃棄物を出さない「環境配慮」「効率化」のためだけではなく、三宅一生氏の服作りの哲学をAI時代に合わせて解釈し、新たなクリエイティブの可能性に挑戦している。歴史あるブランドのAI活用事例は海外のカンファレンスだけではなくAI活用を検討している全てのエンティティで興味を持ってくれるはずだ、と確信し今回の取材に結びついた。その結果、ファッションデザインだけではなく、エンジニア、あらゆるものづくりに関わる方に夢のある話が伺えたのでその内容をお届けする。1975年に三宅一生氏が発表した「包丁カット」シリーズの考えを起点にし、過去のモチーフを現在のコンテキストに蘇らせるアプローチも多くの人に知ってほしい。AIとともに生きる時代のクリエイティブを発揮するための視座や動き方のヒントがたくさん詰まった取材だった。
取材相手は、A-POC ABLE ISSEY MIYAKE率いる宮前義之氏、Synflux株式会社 CEO 川崎和也氏、デザインエンジニアリングを手がける COO/CDO 佐野虎太郎氏の3名だ。宮前氏は2011年から2019年までISSEY MIYAKEのデザイナーを勤め上げた人物だ。Synfluxは機械学習アルゴリズムを用い、衣服生産時に出る布の廃棄を限りなく最小化したデザインとパターンを生成する独自のデザインエンジン『Algorithmic Couture(アルゴリズミック・クチュール)』を開発している。コンピュータアルゴリズムを有するテクノロジー企業と日本を代表するファッションブランドが一緒に組むことになった理由はどこにあるのだろうか? そして、なぜジャケットなのだろうか?
川崎:「テクノロジーを扱う我々にとってもイッセイ ミヤケのデザインはインスピレーションの宝庫です。自分たちが生み出すアルゴリズムを開発する上でも参考になる事例や思想がたくさんあります。特に、A-POCのベースにある「一枚の布」には、衣服として出来上がる際に必要なあらゆる情報がインストールされています。テクノロジーはフラットなもので、メタファーとして「一枚の布」とも言えるでしょう。このA-POCのアプローチは様々な先端テクノロジーを繋げる役割を担う可能性があると思っています。」