北米

2024.04.26

スティーブ・ジョブズが重視した「数字」、決算で見るべきアップルの温度計

Getty Images

次のアップルの決算は、2024年5月2日午後1時30分(米国太平洋標準時)に発表される。

金融業界はその収益を注意深く見守っている。アップルは、直近の四半期において特に中国で逆風に直面している。金融アナリストたちは、現在の業績とそれが2024年の残りの期間において同社の成長におよぼす影響についての手がかりを探そうとしている。

通常、アナリストはMacやiPhone、iPad、関連ハードウェアおよびサービスの売り上げを見て、直近の四半期で成長したかどうかを判断する。私も業界アナリストの1人としてこれらの数字を見る。なぜならアップルの現在と将来の成長性を分析するために重要なデータだからだ。

しかし私には、さらにチェックする数値が1つある。1984年、スティーブ・ジョブズは私を含めた数人にその注目すべき数値を教えてくれた。

たまたま私は、Mac(当時はMacintosh)の発表から数週間後にアップルで行われたミーティングに参加していた。そこでジョブズはMacに関する彼のビジョンを検討するために集まった人々と話をしていた。

その議論の中でジョブズは、すでに市場で大きくリードしていたPCの市場においてMacがどう戦っていくのかと質問されていた。彼は直接的な回答をする代わりに、互いに殴り合い、競争のために利益率を下げ続けることを余儀なくされているPCメーカーに対してジョブズ流の攻撃的な演説を始めた。

1981年にIBMがPCを発売した際、その利益率は40%程度だった。IBMはメインフレームとミニコンピュータで高い利益率を確保していたため、PC事業でも同様の利益率が期待されていた。 余談になるが、IBMが既製の部品を使ってPCを作ることを選んだのはこのためであり、この決断は同社を20年もの間苦しめ続け、最終的に同社は2005年にPCビジネスから撤退を余儀なくされてしまった。

IBMがPCを発売してから1年もたたないうちに、コンパックやHP、ほか数社からクローン(互換機)が登場した。利益率の低いクローンは、1983年にはIBMのPC売り上げを浸食し始めた。1985年、さらに競争が激しくなったPC市場に新たに参入したデルは、PCをユーザーに直接販売し始め、店舗経由の販売を一切行わなかった。

ジョブズは、1980年代終わりから1990年代にかけての「クローン戦争」が激化するはるか以前にそれを予見しており、利益率戦争に参加するつもりはなかった。2002年には、PCの利益率は5%以下になっていた。

「22%以下の利益率は一切受け入れない」と、それがアップルの将来の成功を判断する基準だとジョブズは語った。すべての製品で利益を上げていることに注意を払っている限りアップルは大丈夫だと彼は信じていた。

それ以来、アップルはスティーブ・ジョブズの指示に従い、今日も同社の利益率は常に35%と39%の間を推移している。

フィリップ・エルマー・デウィットのニュースレター「Apple 3.0」に掲載された米銀行大手バンク・オブ・アメリカによる最近の投資家向けレポートでは、アップルの決算を見る際の、売上総利益の役割と影響を強調されている。

投資家は売上総利益率を著しく過小評価している

「投資家は売上総利益率をかなり過小評価している。歴史的に、アップルの投資家は既存プロダクトおよぶプロダクトやサービスに関連する収益性を、同社の将来の業績を測る尺度として考える傾向がある。私たちの分析では、2023年の売上総利益の市場予測が2018年当時どの程度だったかを確認するために2018年まで遡って調べた。当時、ウォール街はアップルの2023年度の総利益率を39%と予測していたが、実際には44%で、当初の予測を大幅に(5%)上回った。

売上総利益率の原動力は組み合わせと垂直統合

アップルの売上総利益率はポートフォリオ全体におけるサービスの組み合わせによって大幅な上昇傾向にあり、2026年までに約0.6%の利益率改善につながると私たちは見ている。売上総利益率改善の大きな要因としてアップルの内蔵モデムを使った垂直統合があり、製品全体の粗利益率を1.1%、iPhoneの粗利益率を1.6%押し上げると推定している。また、iPhoneのProモデルなどのハイエンド製品を選ぶ顧客がいることからこの組み合わせは有望であると考える。

1984年のジョブズとのミーティング以来、私がアップルの決算で最初に見るのがこの数字だ。もちろん、ハードウェアの販売台数やサービスの成長など、収益書で読むべきすべての指標も全体像をつかむために見ている。

しかし、ジョブズの利益率への探求は1984年以来アップルを導き続け、「アップルが利益を上げている」限り、会社は大丈夫という彼の言葉が正しかったことを示唆していると私は思っている。

情報開示:筆者が所属するCreative Strategiesの調査レポートは、アップルをはじめ世界の数多くのハイテク企業が購読している。

forbes.com 原文

翻訳=高橋信夫

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事