経済

2024.04.30 16:15

「温州ミカンを宇宙食に」静岡の中2がJAXA認証へ 野口聡一宇宙飛行士も助言

増田結桜(撮影=露原直人)

石田缶詰からは、宇宙食は地上で食べる食品よりも味や香りを強く作る必要があることを学んだ。宇宙は無重力のため水分が体内に均等に分散し顔がむくみ、その影響で嗅覚が減退し味覚が鈍ってしまうためだ。加えて、レトルトパウチの重要性や宇宙日本食認証を受けるには900ページにのぼる書類を作る過程があることなども教わった。
 
「当時はパッケージの想像図に、星の絵を描いたりして楽しんでいたのですが、『むしろ宇宙食はふるさとを思い出せるイラストの方が喜ばれる』とアドバイスを受けました。幼心に、子どものような考えではだめだと感じた瞬間でした」
 
厳しい評価を得たが、必要な資金や期間を教えてもらうと、改めて本気で作る意思を固めたという。
 
それから数カ月後の2022年10月。増田は、テレビ番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に、「宇宙食の魅力を伝える小学生」として出演した。そこでは、番組の企画の1つとして、JAXAの担当者に試作したミカンゼリーを試食してもらう機会を得たが、「味は美味しいがパッケージがやわらかくて食べづらい」という評価で、認証の合格ラインに0.2点足りなかった。翌年5月に出演した際には、野口聡一宇宙飛行士から「香りがすごくいいが、寒天感が非常に強いので改善が必要」とアドバイスを受けた。
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「さまざまな大人に本気で助言をもらえたことが、むしろ私の背中を押すきっかけになった」と増田は振り返る。その一方で、個人での限界も感じていた。企業との協業が今後必要になると考えた増田は、2022年11月に大学生や社会人らを集めて「チームゆら」を結成し、JAXAの審査を受けるため、2023年10月に一般社団法人化した。
 
15歳未満は代表理事になれないため、増田の母・郁理が代表理事を、増田は理事を務める。メンバーは12名。認証取得に向け「広報」「資金集め」「開発」「書類審査」の4チームに分かれて活動している。
 
月に一度は打ち合わせを行うが、増田には人をまとめる経験がなかったため、当初はミーティングの進行などで難しさを感じたという。ときには母から「今の説明では伝わっていない」などと指摘を受け、組織運営についても学んでいる。

静岡県連が開発材料1年分を提供

宇宙日本食認証に向けて必要となる費用は約500万円。2023年7月からクラウドファンディングを開始しており、100人以上から資金提供を受けているが、まだ300万円以上が必要な状況だ。
 
いくつもの困難が立ちはだかるが、光も見え始めている。2024年2月に、ゼリー開発に必要な1年分の材料の協賛をJA静岡経済連から受けることが決まった。ISSに滞在する古川聡宇宙飛行士とリアルタイム交信する機会も訪れ、「ISSで人気の宇宙食」など現場の声をヒアリングした。OEM先の企業も見つかり、早ければ今年度内には製品化ができる予定だという。
 
現在、宇宙日本食認証プロセスの第一段階となるJAXAへの仕様の提出を済ませている。書類が通り、提出したサンプルが宇宙日本食として適性評価を受けた後は、調整作業申込書の作成・提出、一次審査書類の提出、各種試験と検査、二次審査書類の提出、製造場所への立ち入り検査の実施を受けることになる。
 
宇宙との出会いから約5年。ここまで増田が努力できた背景には、彼女にとことん付き合う母・郁理の存在も影響している。
 
「一つひとつの山を一緒に登った感覚があります。でも、こういう生活もあと数年のことでしょう。彼女が独り立ちすれば、一緒に何かをすることはなくなりますから、今はできる限り楽しみながらサポートを続けたいですね」
 
増田は、最終的に2026年内の認証取得を目指す。ただ、目標はそれだけにとどまらない。将来の夢は、「JAXAで宇宙食の審査に携わり、同じように宇宙日本食認証を目指す人たちを支援すること」だ。

文=ゆきどっぐ 編集・撮影=露原直人

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