「当時はパッケージの想像図に、星の絵を描いたりして楽しんでいたのですが、『むしろ宇宙食はふるさとを思い出せるイラストの方が喜ばれる』とアドバイスを受けました。幼心に、子どものような考えではだめだと感じた瞬間でした」
厳しい評価を得たが、必要な資金や期間を教えてもらうと、改めて本気で作る意思を固めたという。
それから数カ月後の2022年10月。増田は、テレビ番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」に、「宇宙食の魅力を伝える小学生」として出演した。そこでは、番組の企画の1つとして、JAXAの担当者に試作したミカンゼリーを試食してもらう機会を得たが、「味は美味しいがパッケージがやわらかくて食べづらい」という評価で、認証の合格ラインに0.2点足りなかった。翌年5月に出演した際には、野口聡一宇宙飛行士から「香りがすごくいいが、寒天感が非常に強いので改善が必要」とアドバイスを受けた。
「さまざまな大人に本気で助言をもらえたことが、むしろ私の背中を押すきっかけになった」と増田は振り返る。その一方で、個人での限界も感じていた。企業との協業が今後必要になると考えた増田は、2022年11月に大学生や社会人らを集めて「チームゆら」を結成し、JAXAの審査を受けるため、2023年10月に一般社団法人化した。
15歳未満は代表理事になれないため、増田の母・郁理が代表理事を、増田は理事を務める。メンバーは12名。認証取得に向け「広報」「資金集め」「開発」「書類審査」の4チームに分かれて活動している。
月に一度は打ち合わせを行うが、増田には人をまとめる経験がなかったため、当初はミーティングの進行などで難しさを感じたという。ときには母から「今の説明では伝わっていない」などと指摘を受け、組織運営についても学んでいる。
静岡県連が開発材料1年分を提供
宇宙日本食認証に向けて必要となる費用は約500万円。2023年7月からクラウドファンディングを開始しており、100人以上から資金提供を受けているが、まだ300万円以上が必要な状況だ。いくつもの困難が立ちはだかるが、光も見え始めている。2024年2月に、ゼリー開発に必要な1年分の材料の協賛をJA静岡経済連から受けることが決まった。ISSに滞在する古川聡宇宙飛行士とリアルタイム交信する機会も訪れ、「ISSで人気の宇宙食」など現場の声をヒアリングした。OEM先の企業も見つかり、早ければ今年度内には製品化ができる予定だという。
現在、宇宙日本食認証プロセスの第一段階となるJAXAへの仕様の提出を済ませている。書類が通り、提出したサンプルが宇宙日本食として適性評価を受けた後は、調整作業申込書の作成・提出、一次審査書類の提出、各種試験と検査、二次審査書類の提出、製造場所への立ち入り検査の実施を受けることになる。
宇宙との出会いから約5年。ここまで増田が努力できた背景には、彼女にとことん付き合う母・郁理の存在も影響している。
「一つひとつの山を一緒に登った感覚があります。でも、こういう生活もあと数年のことでしょう。彼女が独り立ちすれば、一緒に何かをすることはなくなりますから、今はできる限り楽しみながらサポートを続けたいですね」
増田は、最終的に2026年内の認証取得を目指す。ただ、目標はそれだけにとどまらない。将来の夢は、「JAXAで宇宙食の審査に携わり、同じように宇宙日本食認証を目指す人たちを支援すること」だ。