スタートアップと日々向き合うCVCのキーパーソンが生の声を披露
イベントはスタートアップの経営者など約30名程度が参加。トークセッションは、各社のCVCに対する姿勢と特徴を説明するところからスタートした。三菱電機 ビジネスイノベーション本部投資担当の峯藤健司は、自らが研究職として活躍した経験をもつ。「技術への理解」と「スピード重視」という三菱電機のスタートアップ投資に対するスタンスを説明。
KDDIオープンイノベーション推進本部BI推進部長 石井亮平は、12年前にスタートアップと手を組む事業共創プラットフォームMUGENLABOの立ち上げに関わり、新規事業創出や地域共創、カーボンニュートラルの実現を目的としたCVCにも携わってきたキャリアをもつ。同社では通信以外の全分野に対する投資にフォーカスしていると発言。
そして、ヤマトホールディングス イノベーション推進機能 シニアマネージャーの齊藤泰裕は、宅急便の集荷・配達などを担当する営業所での現場を経験後、商品開発を担当し、CVCとしてはメルカリの黎明期から支援をしてきた経歴の持ち主。約6万人のセールスドライバーが全国で日々活動しているため、さまざまな企業の動向が把握できることを強みに上げ、そのネットワークを活かした全方位的な投資を展開していると語った。
モデレーターのFobes JAPAN Web編集長の谷本有香が、さっそく本題に切り込む。まずVCとの違い、CVCの特徴という観点から、「一般的にCVCの場合、投資決断までの時間がかかるというイメージがもたれがち」という話を振った。
三菱電機の峯藤は「意思決定を早めるために、従来の意思決定とは異なる承認フローを構築すると同時に、CVC担当者がスタートアップの立場に寄り添いながら協業検討を行っている」と自社のあり方を披露。
続けて、ヤマトホールディングスの齊藤が「自社だけで成り立つ事業ではないため、経営陣がアライアンスや投資に関して積極的で、社長以下ボードメンバーの決断が早いのが特徴」とスピード重視のスタンスを話す。
さらに、KDDIの石井はCVCの強みとして大企業のアセットの有効活用をあげ、「アセットを利用することで、スタートアップの事業を段違いに成長させることができる」と事業会社ならではのメリットを説明した。
VCとは異なるCVCの出資フローとは
CVCは企業ごとに、業種や企業文化の違いがある。出資決断のフローはVCと比べ、どのように異なるのだろうか。スタートアップにとって最も気になる点についても話が進んだ。ヤマトホールディングスでは、投資ジャンルは全方位的だが、自社にはない分野を注視し、現場と経営層が同じインスピレーションを感じたら、一気に決定するケースが多いという。同じように通信以外のオールジャンルを投資対象としているKDDIでは、「感度の高い若手社員がリサーチを行い、そこから対象領域を絞り複数のスタートアップと話し合いを進める」と石井は説明する。
一方、製造業の三菱電機は「現場重視」をポイントに置いているという。元々、同社では蓄積された技術が事業創造につながっている。ボトムアップで意思決定していく企業文化があり、「我々がスタートアップと同じ立場になって社内営業をかけるのですが、現場サイドが乗ってくれないと協業できないので、やる気スイッチが入るかどうかがポイントになります。逆に言えば、現場がやる気を出すとプロジェクトは自然に動きだす」と峯藤はいう。
三者三様のフローを経て出資判断をしていることがわかったところで、「出資の最終的な決断材料になるポイントは?」という谷本の質問が飛ぶ。齊藤は「スタートアップ自身が、自分たちの技術は世界一だと確信をもっていること。社会をよくすることができると考えていること」と述べた。石井は「協業によるシナジーを早期に求めるというよりは、当社アセットを提供することで対象スタートアップ事業成長にどれくらい寄与するかだ」という。つまり、自社のアセットがスタートアップの役に立つかどうかを判断材料にしているのだ。
峯藤は、「どんな経営をしているのか、どんな事業に注力したいのかを知るために事業計画を入念に見ている。それを見ることで当社のアセットを提供した時に、もうひとつ上のステージに進めるであるとか、もう一歩外の領域にお互いに踏み出せるかという、双方にとってプラスがあるかどうかをポイントにしています」と財務も重要な判断材料にしていることを説明。ここでも、各社の色がみえる内容で話が展開された。
CVCがスタートアップ経営者に求めるもの
出資決断の一つの要素として、CVCとスタートアップとのスムーズなコミュニケーションもあると言われている。その点について谷本から「もっといえば、ビジネスモデルよりも経営者の人間性や個性が重要だともいわれるが、その点はどう見ているのか?」というストレートな質問も出された。
これについて峯藤は「スタートアップのステージによっても変わる。ある程度、成長したミドルステージ以降は、グングンと事業を引っ張るCEOだけでなく、丁寧に足りない部分を拾っていくCOOのようなペアができている企業がいいと感じています。逆にシードステージや早い段階のアーリーステージではリスクを取る経営者がいいでしょう」と答える。
齊藤は正直に向き合える経営者とタッグを組みたいと答える。
「正直に弱みが話せるかという点は重視しています。『ここがうまくいっていないんだ』ということを話せる人の方が連携しやすい。何を聞いても完全無欠な答弁をされると、当社と組む必要はないじゃないかと思うことがあります」
一方、スムーズなコミュニケーションをするために異なる視点からスタートアップ経営者を分析するのは石井だ。「あくまでも希望なのですが、『大人起業家』だとやりやすいのは事実です。一度社会に出て企業で働いた方だと、企業の作法とか論理を理解しているので、『大企業だからこんなところでつまずいているんだろうな』と理解していただけるのと比較的ビジネスの視座が高く、早期にグローバルを目指す傾向にありますね」と語る。
各社の投資実績から見えてくる3社のアセット活用の仕方
トークセッションの最後のテーマとして挙げられたのが「各社の支援のあり方」と「自社の活用の仕方」という点。3社とも独自のスタンスで多くの実績を上げてきており、その背景などを説明しながら活用方法のヒントを提示した。
峯藤は、ふたつの事例を挙げながら同社の投資のあり方を説明。ひとつは量子コンピュータのソフトウエア開発を手がけるQunaSys(キュナシス)への出資だ。
「量子コンピュータは社会実装までは何年もかかる足の長い案件ですが、三菱電機にはR&Dがあるので、このアセットを活用してもらいたい。社会実装は5年、10年先かもしれないことも、研究の段階から二人三脚で歩めるのが当社の強みのひとつです。そしてもうひとつが金属インクジェットプリンターのエレファンテックへの出資です。こちらは量産に向けての性能向上にコミットしています。金属インクジェットの精度向上にはサーボモーターの制御が欠かせません。当社の得意とするFA機器を活用することで、カスタマイズを含め量産に向けた支援ができると考えて協業しています」
こうした大企業ならではの体力や技術力を活かすことで、スタートアップだけでは難しい足の長い研究や量産品質といった最後の工程の部分で支援をしているのだ。
KDDI とヤマトホールディングス、多くのユーザーを抱える2社の活用メリットは、顧客などの経営リソースを最大限に活かせる点にあるという。
「当社には約4,000万人の個人のお客様、数十万社の法人顧客がいます。そこに対してフルアクセスできるということが最大の強み。そして最近力を入れているのがベンチャークライアントモデルです。当社には数万人の従業員、数十社のグループ会社があるのでこれを最初の顧客にして、これを使って事業化し、それを横展開していこうということに力を入れています」(KDDI・石井)
「当社は、個人向け会員サービス『クロネコメンバーズ』の会員約5,600万人のお客さまと、約160万社の法人のお客さまとの接点があるので、そこにピンポイントでアクセスが可能です。また、北海道から沖縄まで宅急便のネットワークがあるので、例えば“北海道エリアでこのような条件で実証実験をしたい“といったことも実現できます。実際、全国でいろいろな実証実験をしてきました」(ヤマトホールディングス・齊藤)
約1時間に及ぶトークセッションの最後には、参加者の質疑応答の時間が設けられた。その後、ゲストと会場に足を運んだ多くのスタートアップ代表者のネットワーキングに移行。立食パーティー形式のなか、名刺交換、意見交換など活発な交流が行なわれていた。ネットワーキング後の表情を見ると、参加者にとっては多くの発見や学びがあったひと時になったようだ。
三菱電機
https://www.mitsubishielectric.co.jp/