Forbes JAPANが昨年始動した「Art & Business Project」では、ベネッセアートサイト直島(以下BASN)で世界的に知られる福武財団の福武英明理事長と、日本有数の現代美術コレクション「タグチアートコレクション」を引き継ぐ田口美和共同代表にアドバイザリーボードに就任いただいた。異なるアプローチでアートに取り組み続ける二人がその面白さを語る。
田口美和(以下、田口):ミスミグループ(機械部品の大手)の創業者であった父(田口弘)が1990年代から築いてきた「タグチアートコレクション」に2013年から共同代表という立場で関わり始めて、約10年が経ちました。
タグチアートコレクションは主な活動として、全国の美術館で継続的に「タグチアートコレクション展」を開催していますが、最初の展覧会は2011年。SOMPO美術館で行ったのですが、家族としてレセプションに参加して、この時初めて、父がここまでの美術品を集めていると知りました。
それから徐々に規模も大きくなり、展覧会や関連の仕事も増えて。当時、私自身はソーシャルワーカーとして働いたり教壇に立ったりと社会福祉領域に身を置いていたのですが、「この膨大なものをどうしていくの?」という思いもあり、兄弟のなかで興味を持った私がフルタイムでジョインすることを決め、今のポジションに至っています。
父のコレクションはもともとアメリカのポップアートを中心にしていたのですが、私が代表に就いてから、職業的なバックグラウンドも影響しているのか、社会問題をテーマにしたようなアートも少しずつ増えてきています。現在は、500点以上の所蔵品に加える形で、年間50作品くらいのペースでコレクションしています。
この10年でも、当時と今では、現代アートに関する一般の人々の関心は雲泥の差ですよね。企業からも「アートに近づくといいことがあるのかも」と見られているのをひしひしと感じます。
福武英明(以下、福武):僕は2023年に福武財団の理事長に就任しました。福武財団では祖父の代から近代の作品のコレクションをしたりもしていましたが、サイトスペシフィック、コミッションワークといった直島のコンセプトは父の代にできあがり、今の活動はそこに基づいています。そして2010年から、「瀬戸内国際芸術祭」として3年に一度、瀬戸内の島々でさまざまな展示をするというスタイルに。規模の大きな作品やパーマネント(恒久設置)が多い分、作品の増加ペースはゆったりになっています。
地中美術館(直島)もパーマネントで開館時から作品が変わっていないのですが、1点だけアサヒビールさんからお借りしていたモネの「睡蓮」を返すことになり、一時期その場所が空白になることがあったんです。それがずっと父のストレスで……5年、10年ほど探し続けて、ようやくハマるものを見つけたということはありました。