スポーツ

2024.04.21 14:15

大谷翔平選手にまつわる「たられば」の罪深さ

大谷翔平選手 / Getty Images

大谷選手が獲得した信頼

水原容疑者の横領は、一般人の筆者にはびっくりするしかないくらいの巨額であり、それがギャンブル依存症という病が故とはいえ、言葉も出ないほどだ。お金には興味がないと言われている大谷選手でも、身近にいた人が自分を騙してお金を取る人だったという、裏切られたショックは大きかっただろう。
advertisement

大谷選手は、被害者として精神的なダメージを受ける一方で世間からは疑われる立場に立たされ、そのような中捜査に協力し、メディアのインタビューにも対応した。これだけ難しい時期にも自身の本業に対する信念を貫いて野球に集中し、目覚ましい活躍を見せつけている。

また、先の会見で「一平さんは”嘘をついていた”」と言う表現を数回にわたり使い、水原容疑者の行動について伝えていたが、「自分は彼に嘘をつかれた」と自分が被害を受けた感情が含まれる表現を一度もしていないのがとても大事な点だ。事実を事実のまま伝えた大谷選手は、世間の感情論に絡まれることのないスタンスを守り、最悪の状況でも「自分がやるべきこと」と「自分でできること」にフォーカスした。そんな大谷選手が獲得したのは、今まで以上の「信頼」なのではないだろうか。

大怪我の功名、そして光明さえ見えることもあった。大谷選手の危機的状況を前に周囲が一丸となって彼を支えようとなったこと、一心同体かのようだった通訳が不在になったことで、大谷選手自身が直接新しいチームに溶け込んでいく環境がつくられたことだ。大きな試練を経験した大谷選手は、今後さらに成長し、強くなっていいくのだろう。なんだか、まるでパンドラの箱の中に残っていた希望のようだ(パンドラの箱の話を、敢えてよき表現としてここでは使わせて欲しい)。
advertisement

最後に、この事件から学ぶべき多くの教訓がある。それは、個人の信頼性やプライバシー保護の重要性、適切なサポート体制の必要性、そして自分が住む国の言語の理解の必要性だろう。さらに、ソーシャルメディアの無作法な発言は、悪意がなかったとしても人を追い込むことがあるということだ。

たとえ対象者が世間で顔の知れた人であったとしてもそうだ。言われもないことを言われたり、非難されたりすることを「有名税」と言われるが、それはそう言うことを受けた本人や関係者が、自らを納得させるためにある言葉だと筆者は思っている。

無礼な言葉や行為を投げかける側が「仕方がない、有名税だよ」などと言うなど言語道断だ。悪の事実があり、それに対して意見をする自分の発した言葉に責任を持てるのであれば、自身の意見を発する自由はあるし、どんどんやって良いと思う。そして、もし誰かを傷つけたら、きちんと謝る。幼稚園の子どもでも知っていることなのに、大人になると言うことは、日常の様々なことに翻弄されて、人として本当に大事なことを忘れてしまうのだろうか。

大谷選手はもう、「次!」という感じで、この事柄から切り替え前に進んでいることだろう。なぜなら、捜査や裁判は、彼の力の及ぶことではないからだ。横に置いておくのではなく、その事柄を箱に入れて、どんどん前に進んでいってほしい。

文=日野江都子

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事