経済

2024.05.01 13:30

金融政策の「正常化」

2022年に、ロシアによるウクライナ侵攻の影響から、エネルギー価格や穀物価格が急騰したことから、日本のインフレ率も2%を大幅に超えて上昇した。一時4%まで上がった(全品目)インフレ率(全商品)も、本年2月には、2.8%まで緩やかに下落してきている。

2%を超えるインフレは2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻に端を発しているが、その後価格上昇はエネルギーや生鮮食品以外にも広がり、現在はエネルギー・生鮮食品を除く「コアコア指数」でみてもインフレ率は3.2%超と、全品目インフレ率を上回るようになっている。

実際のインフレ率の上昇の発端は海外発であったものの、「0-0-0」均衡を崩すうえでは大きな転換点になった。外的要因により均衡の一角が崩れたことは、企業が価格不変の呪縛から逃れるうえで重要な出来事となった。ただ、期待インフレ率はなかなか上昇しなかったが、その期待インフレ率も上昇を続け、2%に迫るようになってきた。この2%インフレ率の継続を視野に、今年の春闘では、5%を超える賃上げが実現した。

2022年以降2年間にわたって、インフレ率の2%超えでも日銀が引き締めを行わなかったことは、期待インフレの上昇、賃上げの上昇を辛抱強く待っていたのが理由だ。

実際のインフレ率が4%に上昇したあと、ゆっくりと2%に下落する過程で、期待インフレ率がゆっくりと2%に向かって上昇している。そして、実際のインフレ率と期待インフレ率が2%で一致するように収束することで、「0-0-0」均衡から、インフレ目標政策の理想形である2%インフレ、2%期待インフレ、3%賃金上昇の、「2-2-3」均衡へと移行することができる。これが達成されたときはじめて、インフレ目標政策は達成されたといえる。

現在はこれが達成される可能性は高まっているので、日本銀行もようやく、金融政策の正常化への一歩を踏み出すことができた。


伊藤隆敏◎コロンビア大学教授・政策研究大学院大学客員教授。一橋大学経済学部卒業、ハーバード大学経済学博士(Ph.D.取得)。1991年一橋大学教授、2002〜14年東京大学教授。近著に、『Managing CurrencyRisk』(共著、2019年度・第62回日経・経済図書文化賞受賞)、『The Japanese Economy』(2ndEdition、共著)。

文=伊藤隆敏

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