「左脳タイプ」「脳の10%しか使っていない」は嘘? 脳の誤った通説

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人間の心は、私たちが想像する以上に不思議で満ちている。その証拠に、私たちは何世紀にもわたって人間の心を理解することに専心してきた。精神や魂を意味する「psyche」と学問を意味する「-ology」が組み合わさってできたpsychology(心理学)は、とても興味深い分野だ。

心理学の先人たちの時代から、学者たちは人間の心と脳の本質を理解する試みを続けてきた。まだ定かでない部分がたくさんあるものの、それと同じくらいの知識を得ることができた。しかし、それと同時に誤った通説も生まれた。実証的裏付けのない、私たちの精神の理解を誤った方向へ導く発想だ。

以下に示す、2つの言い伝えを聞いたことがあるだろう。本稿では、その背後にある真実を、本物の心理学的洞察を通じて伝えたいと思う。

1. 人は「左脳タイプ」か「右脳タイプ」のどちらかである

人が「左脳タイプか、右脳タイプか」という発想は不朽の概念だ。脳の左側部分は論理的、右側は創造的であると擬人化され、人の個性やスキルは、どちら側の脳が支配的かによって決まるという考えだ。あなたは論理的で分析的な左脳タイプなのか、それとも自由奔放で創造的な右脳タイプなのか? 実に魅力的な二分法だ。

脳の左半球と右半球は対称的に配置されているが、両者は非対称的に成長し機能することがわかっている。いずれも1000億個近い(天の川銀河の星の数に近い)ニューロンが識別可能な領域に位置しており、特定の役割のために調整されている。2つの半球は協力して機能するが、それは私たちが直感的に思っているような意味ではない。

学術論文誌のInternational Journal of Innovation, Creativity and Change(IJICC)に掲載された研究論文は、脳の左半球と右半球が直感的ではないしくみで機能していることを強調している。たとえば、脳は目から入ってくる視覚情報を脳の後方にある後頭葉を通じて処理する。しかし、左半球は右の視野から来た情報を処理し、逆も同様だ。同じように、左前頭葉は主に体の右側の動きを制御し、やはり逆も同様だ。

しかし、こうした非対称性にも関わらず、通常の認知機能が左右どちらかの半球だけで起きていることを示す証拠は事実上存在しない、と著者らは説明する。左右の大脳半球をつなぐ脳梁は、両半球間での広範なやり取りを可能にし、脳の活動が両者間で連携する手助けをしている。

左脳的/右脳的思考という考えは、便利な枠組みに思えるかもしれないが、最終的には科学的事実と一致しない。分析的思考に長けた人もいれば、創作活動が得意な人もいるだろうが、こうした長所と、どちらかの半球が支配的であることを確実に結びつけることはできない。現実には、ほとんどの人々がさまざまなスキルを持っていて、左脳タイプと右脳タイプというカテゴリーにきれいに分けられるわけではない。

2. 人間は脳の10%しか使っていない

映画の世界から日常会話にいたるまで、人間が脳の10%しか使っていないという通説は浸透している。映画『LUCY/ルーシー』でスカーレット・ヨハンソン演じる女性が、「10%の閾値」を超えたときに超人的能力を発揮したことを覚えているだろうか? しかしながらこのアイデアは、あまりにも多くの疑問を呈した。

心理学の世界では、人間は「認知的倹約家」であるとよく言われる。著名な認知科学者のキース・スタンオービックによると、動物(人間を含む)は子孫を残せるように長い時間をかけて進化したのであり、常に完璧な決定を下してきたわけではない。これはつまり、合理的であったり現実に完全に一致する決断を下すことが、生き残りにとって必ずしも最も重要なことではないことを意味している。たとえそれが少々不正確であったとしても、エネルギーや資源の消費を減らすことの方が人間にとって有益なことがある。
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翻訳=高橋信夫

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