ワークスタイリング東京ミッドタウン八重洲では2024年2月14~15日の2日間、働く人の幸せ・Well-Beingについて考えるイベント「Well-Being Days」を開催した。ワークスタイリングが提案する「5つのきっかけ」の取り組み内容について見ていこう。

レジリエンスを高める
【ゆるくつながる】
多様な人とゆるく広く出会うことで、自分にはない視点に触れ、自分で解決できることや一緒に解決できることに気づき、その結果、レジリエンス(予想外なことに対しての防御力や回復力)を高めることを目指すのが「ゆるくつながる」というテーマだ。多様な働き方をする人が集まる場所だからこそ、社内外の肩書を脱いだ多様なつながりをもってほしい。そんな想いから生まれたのが、ワークスタイリングのコミュニティづくりの場だ。人と人をつなぐ役割を担うコミュニティマネージャーを配置し、あの手この手でつながりができるようなイベントを仕掛けている。
例えば、隔週木曜日の夕方には軽食を用意して誰でも気軽に会話ができる「Thursday Gathering(サーズデー・ギャザリング)」を開催したり、たばこを吸わない人のたばこ部屋の機能をイメージして、仕事の合間に15分立ち寄ってコミュニティマネージャーやその場にいる人とちょっとした遊び(塗り絵やボードゲーム)をしましょう、というコンセプトで「さぼテリア(サボる+カフェテリア)」という休憩場所もつくっている。

幸せな働き方のポイントは
“仲間”にある
ワークスタイリング主催のイベント「Well-Being Days」に登壇した、予防医学研究者/公益財団法人Wellbeingfor Planet Earth代表理事の石川善樹は、「幸せに働くためのポイントは『仲間』にある」と話す。
幸せの在り方は人それぞれ。多様であることを前提にチームで力を発揮するために欠かせないのは「自分を知り、相手を知ること」であり、それが幸せに働くことにつながっていくという。
「人によって、何がストレスになるかは変わります。新しいことや面白いことが好きな人がいる一方で、安心・安全・前例を好む人がいます。前者の場合、自由度がないことがストレスになり、後者の場合、段取りがないことがストレスになるでしょう。自分はどちらのタイプで、一緒に働く仲間はどうか。それを理解していなければお互い心地よく働くことはできません。人生100年時代。前例やロールモデルを見つけにくい社会だからこそ、楽しそうに生きている先輩をいろんな場所に行って見つけるしかありません。ワークスタイリングのように、いろんなバックグラウンドの人の話を聞ける場所は、つながりをつくる環境としてとても意義深いなと思っています」
課題に向き合う仲間を得る
【仲間と解決する】
このテーマで目指す変化とは、同じ課題をもつ仲間と出会い、多視点で課題に向き合う価値や共感を感じることで、一人では考えられない解決策に気づくこと。この気づきを得ることで解決に向けて仲間と行動できるようになることである。ワークスタイリングが手がけているのは同じ課題に取り組む「実践コミュニティ(実践共同体)」の提供である。ワークスタイリングの利用者のなかには、従業員の幸せやWell-Beingの推進をミッションにしている人もいるが、正解のないテーマだけにひとりだけで考えるのは難しい。そこで、同じミッションをもっている人同士が集まり、悩みを吐露し合い、共感し合いながら、小さなアクションから試していくという取り組みを進めている。有識者に直接なんでも聞くことができるセッションなども定期開催している。

人間味のあるダイアログテーマでお互いを理解しよう
「Well-Being Days」では、実践コミュニティのメンバーが日々悩んでいる課題を有識者に相談するセッションに、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科教授、前野隆司が登壇。Well-Beingの実現に向けて、先進的な取り組みを行う企業の分析を行っている前野は、伊那食品工業や西精工、ネッツトヨタ南国など全国の中小企業の事例を紹介しながら、幸せな働き方をいかに追求していくか、相談者の悩みに答えていった。
前野は、抽象度の高い問いについて話し合う時間が大切だと話す。
「幸せの条件を探ろうとすると、『自分を好きだと思うのはどんなときか』『本当にやりたいことは何か』といった質問になり、自己開示をせざるをえない。飲み会で、そんな対話をする時間をつくるだけでお互いの理解は深まります。
また、フルリモートの働き方は相手の悩みを感じとりにくいもの。リアルに会う時間をつくり、五感で相手に触れる機会を設けたうえでオンラインを継続するといいのでは。朝礼や会議の最初の時間に、自分の気持ちを発信する時間をつくったり、『今年の夢』『失敗談』『私の好きなこと』など場がゆるむテーマで話してもらったりするのもやり方のひとつ。人は忙しいと、本質的な話よりも目の前の仕事に目を奪われがちです。人間味のあるダイアログテーマを半ば強制的に話してもらうことで、人と人のウェルビーイングな関係につながります」
【五感で感じる】【気軽に学ぶ】【自分と向き合い、対話する】
それぞれのテーマで目指している変化
「五感で感じる」というテーマで目指す変化とは、五感を使うことで自分にとって何が心地よいのかに気づき、心身がよりよい状態でいられるための改善を行うことだ。ワークスタイリングでは、シェアオフィスのなかのコンタクトポイントを使って、働く人の感性を開くことができないかと考え、オリジナルのマグや、心地よく働くための香りをつくっている。ワークスタイリングのサービスデザインを手がけてきたワークスタイル推進部デザインマネジメント担当の浜田桂(以下、浜田)は、次のように話す。


2017年の事業開始当時から、エントランスにはオリジナルの香りを置いています。リブランディングを機に、エントランスに置くだけでなく、名刺サイズのカードにシュッと吹きかけて、個室や会議室で香りを感じながらお仕事ができる、創造性を高めたり集中力が高まる香りもつくりました」(浜田)
また、月に一度「おつかれハナの日」と称して、シェアオフィス内に花屋を開店し、仕事帰りの利用者にもち帰ってもらうという取り組みも行っている。

香りやその姿に感性が開くことはもちろんですが、単純にお花をもって帰ってもらうのではなく、カードを添えてもって帰っていただくようにしています。『大好きだよ』とか『いつもありがとう』とか日ごろ言えないことを、『シェアオフィスでもらったんだよ』と言い訳して家族に渡して、会話のきっかけにしてほしい。そんな想いを込めています」(浜田)
そして、「自分と向き合い、対話する」というテーマのイベントやサービスに参加した利用者は、自分と向き合うことで前向きになり、「希望や勇気をもつ」という変化があったという。開始以来、告知するとすぐに満員になってしまう人気のサービス「聴いてくれるワークスタイリング」は、キャリアカウンセラー、コーチング、産業カウンセラーの「聴く」ことに関する3つの資格をすべてもったプロが、「ただ話を聴いてくれるサービス」だ。

だから、全部の資格をもったプロがどんな話でも聴いてくれるというサービスをつくりたかったんです。家族にも友達にも言えない、言いたくない、でも話したい。そういうことを聴くプロに話して明日からすっきりして仕事をしてほしい。自分の話をすることはカタルシス効果といって、心の浄化作用があるという研究もあるんですよ」
また、「気軽に学ぶ」というテーマでは、アートやマネジメント術のワークショップなど、働く人が仕事帰りに手軽に学ぶことができる機会を提供している。
WORK STYLING
https://mf.workstyling.jp/community/
はまだ・けい◎三井不動産ワークスタイル推進部デザインマネジメント、サービスデザイン担当。大手広告代理店メディア新規事業、人事企画を経て、三井不動産入社。社会人の傍ら、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメト研究科で、システムズエンジニアリング、デザイン思考・ワークショップデザインを学ぶ。