業界の垣根を超えてアントレプレナーシップを発揮し、社会を変革してきた3人。多様な「正義」がひしめく現代社会において、いかにして未来にバトンを渡すのか。
未来の世代の利益を守るために、私たちは今、どんな行動を起こすべきか。
この問いが本特集で掲げる問題意識だ。気候変動、格差、分断をはじめ世界的な課題があふれている世界において、その問いに答えるかのように「新たな価値観」を提示し、社会の流れを変えている多彩なアントレプレナーたちがいる。
飲食店で国内初のB corp認証(社会的・環境的パフォーマンス、説明責任、透明性に関する高い基準を満たす企業に与えられる国際認証)を取得したovgo創業者であり、B corp認証企業をリードするB Market Builder Japan共同代表の溝渕由樹。「遺贈寄付」を提案し、社会のお金の流れを変える日本承継寄付協会代表理事の三浦美樹。第18回ショパン国際ピアノコンクールで第2位を受賞し、ジャパン・ナショナル・オーケストラの代表としてクラシック音楽を軸に音楽家の社会的役割を模索する反田恭平。3人による座談会はそれぞれが実現したい「未来」の共有から始まった。
溝渕由樹(以下、溝渕):幼いころからクッキーが大好きで、私自身が食べ続けたいと思えるクッキーをつくり始めたことと、一枚のクッキーを通じて環境問題や人権問題について考える最初の一歩になればというのが、ovgoを立ち上げた理由です。2020年にプラントベース(植物由来)のアメリカンクッキーを製造・販売する「ovgo Baker」を立ち上げ、2年で全国6店舗にまで拡大。運営会社のovgoは、23年にB corp認証を取得し、資金調達も実施。本場ニューヨークをはじめ海外展開も視野に入れています。
日本はいまだにサステナビリティ運動の存在感、危機感がともに少ない状態。すべての人や環境、地球にとって「よりよい社会」を実現するためには、従来の資本主義のあり方から、すべてのステークホルダーが「利益」を得られるカタチに変えていかなければなりません。
そうした問題意識から、24年1月に(パタゴニアやオールバーズをはじめ)世界で8000社以上のB corp取得企業を生んだ認証機関である「B Lab Global」の国内組織「B Market Builder Japan」の共同代表に就任しました。日本ではまだB corp取得企業は40社程度ですが、欧米のように取得環境を整え、10年以内には1000社ほどまで増やしたいと考えています。最終目標に「包括的で、公平で、リジェネラティブな経済の実現」を掲げるB corpの考え方が広まることが、日本に「新しい資本主義のカタチ」を生み出すと信じています。