経営・戦略

2024.04.19 09:15

年400万円獲得のチャンスも 日本版「仮想株式」が変える報酬のあり方

南青山アドバイザリーグループCEO 仙石実(撮影=曽川拓哉)

給料アップやSO付与との違い

では、エンゲージメントストックは、給料をアップしたりSOを付与したりするのとは何が違うのか。
 
まず給料の場合は、一度昇給するとその後は下げにくくなる「下方硬直性」がある。エンゲージメントストックは、ベースは変えない、あるいは昇給と合わせて従業員に経済的インセンティブを与えることが可能だ。
 
SOに関しては、社員に多く付与すると希薄化(既存株主が持つ株の価値が相対的に下がること)が発生する。エンゲージメントストックでは、株式の発行ではなくポイント化しているためにそれを防げるのがメリットだ。
 
また、昨年5月に、信託型SOの税率は行使した時点(現金が獲得できていない段階)で最大55パーセントという国税庁の見解表明が「スタートアップにとって金銭的にも事務的にも重荷になる」と波紋を呼んだが、エンゲージメントストックは、社員は報酬を受け取った時点で給与所得となり現金化する際の手続きも少ない。会社にとっては支払い時に損金算入できるので税金対策にもなる。
 
こうしたメリットが評価されて導入が進むエンゲージメントストックだが、仙石は「今後さらなる広がりを見せていく」と自信を見せる。その1つが新規事業やM&Aとの親和性だ。仙石が語る。
 
「ある大手金融機関の成長事業開発部部長と話したときに、『新規事業やM&Aはなし崩しになりやすいが、それを促進させる効果があるんじゃないか』という話になったんです。エンゲージメントストックを取り入れて、例えば新規事業に従事する社員にポイントを付与し、事業計画を達成したときに現金化できるという設計にすれば、メンバーがよりコミットするようになるのではないかと。M&Aで買収した企業の社員に付与しても同様の効果が得られるのではないでしょうか」
advertisement


 
ちなみに、この金融機関は実際に導入を検討しているといい、こうした企業での事例がたくさん現れれば、未上場に止まらず大手企業にも浸透していきそうだ。
 
ただ、総じて導入に際して必要となるのは、設定する報酬と目標のバランスだろう。経営陣が高い報酬の対価としてほぼ実現不可能な高い目標を設定すれば、当然社員の士気は上がらない。また、転職を考える社員の場合、仮に数十万円の報酬が見込めても、転職候補先から100万円単位の給料アップを提示されれば引き止めるのは難しい。
 
エンゲージメントストックのサービス開始からはまだ1年弱。導入企業のその後を興味深く追っていきたい。

文=露原直人 撮影=曽川拓哉

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事