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2024.04.27 11:00

新しいものは、原点回帰に通じる 2050年の東京を体験する「SusHi Tech Tokyo 2024 ショーケースプログラム」

持続可能な新しい価値創造を目指し、東京都が推進するコンセプト「Sustainable High City Tech Tokyo=SusHi Tech Tokyo」。その大規模イベント「SusHi Tech Tokyo 2024」が、4月27日から5月26日にかけて東京ベイエリアにて開催される。

体験型の先端技術ショーケースプログラムに関わる3人が、その意義とシンボリックなプロダクトについて語り合った。


佐藤勇介(以下、佐藤):今回の「ショーケースプログラム」の総合プロデューサーに就任して、まず目指したいと考えたのは “東京の未来をポジティブに伝えたい”ということでした。「先端技術の粋を提示しながら、来るべき2050年の未来を楽しんでもらいたい。みんなで素晴らしい未来を祝おう!」という想いがベースにあります。

一方で東京には、江戸という大きな伝統が根付いています。過去からの「持続可能性」という意味で、伝統と革新をミックスしたメッセージを打ち出せないか。そこで山車や神輿、和太鼓を手がける宮本卯之助商店さんと、テクノロジー技術を駆使して未来的なプロダクトを手掛けているRDSさんにお声がけしました。

宮本芳彦(以下、宮本):宮本卯之助商店は創業が文久元年(1861年)。163年にわたって、明治期から浅草を拠点に活動しています。佐藤さんのおっしゃる伝統と革新のミックスという意味では、東京の檜原村の杉の間伐材を有効活用するプロジェクト「森をつくる太鼓」を行っています。まさに「サステナブル」を念頭においたもので、「SusHi Tech Tokyo」のコンセンプトには大きく共感しました。

杉原行里(以下、杉原):「SusHi Tech Tokyo」では、私たちRDSが得意とする次世代モビリティにも重点を置いていますよね。当社では先端テクノロジーを用いてデザイン、モータースポーツ、モビリティーの研究開発などさまざまな事業を展開していますが、私が重んじているのは「テクノロジーを通じて未来に何を残せるか」。現在・未来でテクノロジーが存分に使われていってほしいと考えています。もともと佐藤さんとは様々なプロジェクトでご一緒してきた経緯もあり、今回の未来観にも深く共感したことから、参画しています。

佐藤:お二人が揃ったことで、イベントにとってシンボリックなプロダクトの像が見えてきたんです。それが山車。先端テクノロジーが見せる未来を、伝統と融合して見せられないかと考えたときに、伝統と革新技術を組み合わせた山車がふさわしいのではないかと。

株式会社マグネット取締役 佐藤勇介

株式会社マグネット取締役 佐藤勇介

宮本:山車はお祭りで豪華な人形や装飾とお囃子で人々を魅了し、盛り上げる役割を持ちます。今回のイベントにもぴったりだと思いました。

杉原
:現代まで受け継がれた伝統と未来の両方をしっかりと表現できると思っています。

「インクルーシブな山車」にするために

佐藤:今回の山車のコンセプトの柱にあるのは、インクルーシブ。老若男女、障害のある方、誰もが引ける山車を目指しています。現在、お二方がそれぞれ職人や技術者の方々とチームをつくってデザインを考案、制作にあたっていただいていますが……。

杉原:これがなかなか大変で(苦笑)。なにせ、2050年の山車ですから。本来、山車を引くには大きな力が必要ですが、誰もが引けるインクルーシブな山車にするため、EVのアシストを搭載しています。操縦席を設けているので、お客さんはパイロット気分で山車を動かす喜びも味わえるのでは。まわりにはLEDライトをふんだんに配置し、情緒的部分を表現するという設計です。

宮本:そんなテクノロジー満載の亀をモチーフにした土台に、当社チームが制作した彫刻や太鼓、意匠や彫金を施した2層式の上部を合わせるというつくり。和太鼓や和楽器を演奏するチームも準備しています。

杉原:新しい視点やアイデアを盛り込んだユニークな山車ですが、これまで受け継がれてきた伝統から大きく外れないように気をつけています。その点は大事にしたくて、最初の1か月は、宮本さんから山車や歴史、伝統について教わる勉強会でしたね。

宮本:その姿勢がとてもうれしかったです。ただ、本質的に祭りは楽しむものです。だから正しいか否かにとらわれすぎず、なるべく楽しめるカタチに持っていけるようにお伝えしました。

宮本卯之助商店8代目 宮本芳彦

宮本卯之助商店8代目 宮本芳彦

佐藤:宮本さんのそのスタンスのおかげで、そこからどんどん山車の構想が盛り上がっていきました。ほかに楽しめる要素として、山車にはDJブースや浮世絵をモチーフにした映像を流す大型LEDモニターを搭載。そして、新しいお囃子を音楽プロデューサー・小袋成彬さんに、踊りを振付師・FISHBOYさんに依頼するなど豪華な布陣で挑んでいます。現代のお祭りは、担い手不足から消滅の危機を迎えているという側面もありますが、伝統を残しつつ、現代の技術や魅力的な創作・表現を取り込むことで、次世代へと継承されていくのでは。今回がそのひとつの見本となれればうれしいですね。

伝統と革新が協業できる未来へ

杉原:この山車には、インクルーシブ、サステナブル、モビリティ、ダイバーシティといった現代の社会課題のヒントがたくさん詰まっているのだと思います。山車のような伝統的な文化表現に現代の問題を織り交ぜるときは、さりげなく、かつ巧妙にテーマを織り込む事が必要。そこが僕らにとって勝負所。社会課題を直接的に打ち出しすぎたら面白くない。100年の恋も冷めますよ。

佐藤:100年の恋も冷める(笑)。

宮本:それはすごく同感です。

杉原:だから僕らは“伝える”のではなく、来場者が見て体験して楽しむことで“自然と伝わっている”状態にしたい。子どもたちが目を輝かせるような、純粋に楽しめる未来の姿をつくれたら成功かな、と。きっと、社会課題は眉間にシワ寄せても解決なんてできないから。

 株式会社RDS代表取締役 杉原行里

株式会社RDS代表取締役 杉原行里

宮本:まさに。そもそもお祭って、たくさんの人が集まって、皆で準備から片付けまでワーワー言い合いながら行うもの。そのプロセスでは異なる意見が飛び交い、人同士が交わる。本番だけでなく、プロセス自体がお祭りの醍醐味では。そういった人同士の交わりを、日本人は昔からやってきたということ。よくビジネス社会ではチームビルディング、コミュニティビルディングと叫ばれますが、そうではなく、このお祭りを普通にやればいいのでは、と思います。「おいで、おいで、皆で一緒にやろうよ」、と。

佐藤:いまは、企業が一社単独で頑張るというのはなかなか難しい時代。このプロジェクトもそうですが、協働・協業が求められている中で日本人が昔からやってきたお祭り精神に立ち帰るというのはひとつのカギでしょうね。

宮本:新しいことをやっているようで、実は原点回帰していることは多いと思います。この「SusHi Tech Tokyo」もそうですが、さまざまな分野でサステナブルに目が向けられています。でも、日本の文化はそもそもサステナブルなことが多いんですよね。例えば太鼓は、自然との共生や地域の繁栄を願って祭や芸能で用いられた道具。冒頭でお話した「森をつくる太鼓」事業や今回の山車の太鼓には東京の材を有効活用していますが、祭本来のコンセプトを考えれば、ごく自然なことなのです。

杉原:新しいものに見えているけど、それは原点回帰でサステナブルだった、と。

宮本:山車も然り。どちらかというと東京ではお祭り=お神輿のイメージがありますよね。それは明治時代に路面電車の電線が敷設されたことで、背の高い山車の出番が減り、町神輿が増えたから。しかし現在は電線の地中化が進められていますから、今後の未来では再び山車の出番が増えてもおかしくないですし、お神輿よりも多くの人が参加しやすいという点ではより時代にマッチするのかもしれません。

杉原:興味深いですね。さきほど協働・協業という話が出ましたが、今回、佐藤さんと宮本卯之助商店さんとひとつのチームとなって取り組むことで、とてもよい刺激をもらえています。

宮本:同感です。佐藤さんが打ち出したコンセプトは面白いですし、デザインや技術的な部分は当社とRDSさんを信頼して任せてくれたから動きやすかった。RDSさんの最新テクノロジーで可視化する技術には驚きと発見がありました。2人から当社にはないようなアプローチや発想が出てきたときに、気づかされることがたくさんありました。

佐藤:専門分野がまったく異なるので、最初のすり合わせのプロセスが一番大変だったかと。ですが、打ち合わせを重ねてしっかりと共感・共鳴し、作業を分担化できことでプロジェクトを進められました。私も、企業がそれぞれの得意部分や知見を出し合って協業することの素晴らしさを再確認できました。

これまで誰も見たことのない、想像もつかないような2050年の山車で、皆さんをワクワクさせたいですし、楽しんでもらいたいです。その一心で一丸となり取り組んでいます。来場される皆さん、ぜひ期待していてください。


さとう・ゆうすけ◎株式会社マグネット取締役。慶應義塾大学法学部政治学科卒業後、制作プロダクションに入社。広告プランニング部門のマネージャーを経て、株式会社マグネットを設立。 関西テレビの広告をはじめ、スポーツ、アート、ロボットなど多岐に渡る分野で企業・メディア・プロジェクトのプロデュースを担当。欧州で最大規模かつ最先端の社会実験場として認知されているオランダの国際的なイベント「Border Sessions」の日本招致を行うなど、国内外でプロデュース事業を数多く手がける。

みやもと・よしひこ◎慶應義塾大学経済学部卒。英国ウォリック大学大学院国際政治経済学修士卒。2010年より株式会社宮本卯之助商店代表取締役社長。文久元年(1861年)創業の太鼓・神輿・祭礼具製造販売を行う同社にて、各地の祭礼・古典芸能・組太鼓まで広範な文化の保存と発展に従事する。2014年より和太鼓スクール・ヒビカスを立ち上げ、横浜・浅草・福岡天神の3店舗を運営。またアメリカ子会社kaDON(カドン)を設立し、世界初の太鼓のオンラインレッスンサイトを展開。東京の間伐材を用いた「森をつくる太鼓」や、「いやさかプロジェクト」として和楽器音楽のプロデュースも行う。

すぎはら・あんり◎株式会社RDS代表取締役 / 株式会社ROIDZTECH代表取締役。15歳で単身渡英し全寮制高校に入学、Ravensbourne University Londonを卒業。先端テクノロジーを駆使し、モータースポーツを中心にモビリティーやロボットなどの研究開発を行う。その他にもパラリンピック選手らと共に車いすレーサーやチェアスキーの開発を手がけ7つのメダルを獲得。2013年グッドデザイン金賞を始め、世界最高峰のデザインアワード「A’ Design Award & Competition」で2020年にプラチナを受賞など多く受賞。「HERO X」編集長。

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