投資家が絵を描く理由
藤吉:(阿部氏の部屋に飾られていた絵を見ながら)この絵も阿部さんがお描きになったんですか?阿部:そうです。よく「富士山ですか」と言われるんですけど、実は北海道の羊蹄山です。別名「蝦夷富士」と称されるくらい似ていますが、このニセコの芝桜との鮮やかなコントラストは夏の北海道ならではの景色だと思います。
藤吉:そもそも、阿部さんはなぜ絵を描くようになったんですか?
阿部:根底にあるのは、自分が何かに反応したときに、それを誰かとシェアしたいという衝動ですね。例えば僕が花屋さんの前で立ち止まるのは、「色」に反応したときです。その感動をキャンパス上に再現するために自分がきれいだなと思う色を重ねていく──技術的には全然足りないんですけど、それが僕にとっての「絵を描く」ということです。
藤吉:自分が見たものを他の人にどう共有してもらうかという感覚は、実はビジネスの世界にも通じるものがありそうですね。
阿部:そうなんです。ビジネスとか投資の世界でも、あるひとつの事象をみんなが同じように目にしていても、それをどう見ているか、そこから何を感じて、何を受け取るかは、人によってまったく違うわけです。
その意味で「優れた経営者」というのは、みんなと同じものを見ていても、そこから全く新しいビジネスモデルを思いつく人とも言えます。
藤吉:新しいビジネスモデルを思いつくことを、阿部さんはよく「キャッシュフロー(利益)の泉を見つける」と表現していますよね。
阿部:はい。例えば柳井正さんがユニクロが創業した当時、同じように日本でアメリカンカジュアルの商売を始めた企業が実はたくさんありました。当時のアメリカの市場を見れば、そういう服への需要があることは誰の目にも明らかだったからです。
ただ他の経営者が自分たちの商売を「小売業」と捉えていたのに対して、柳井さんだけが「製造業」として捉えていた。自分たちで服をデザインして、開発して、作って、売るけい言わば「製造小売業」という新たなビジネスモデルを作り上げたんです。これが柳井さんが見つけた「キャッシュフローの泉」ということになります。
投資家として、そういう優れた経営者と同じ「泉」が僕にも見えたときは単純に嬉しいし、その企業の利益の将来性に対する「ビジビリティ(visibility:可視性)」が一気に上がる。他の人には見えない未来が見える確率が高まる。そういう感動を共有する感覚は、いい絵を見たり、いい音楽を聞いたときと同じだと思います。