パレスチナの問題はバンクシーがThe Walled Off Hotelにてアート+商業を組み合わせて課題を世界中に可視化し人々の行動を促し、環境問題はオラファー・エリアソンがフィヨルドの氷河をパリの街に持ち込み圧倒的なインパクトで温暖化を伝え、政治・権力のあり方についてはアイ・ウェイウェイが自分の身を危険に晒しつつさまざまなアート作品(ツボ、ひまわりの種、写真)で伝えている。
もちろんアートにはメッセージを伝える以外の価値があり(例えばメディテーション的な価値)、楽しみ方もビジュアル以外のオーディオや参加型などもあるが、ここではアート論を深掘りせずに、アートが人々の認識を変えるインパクトを中心に進めていく。
そのアートが持つインパクトを信じて日本の地域課題に取り組む方々が「地球・超AIと共存するために「ありえない」未来を生み出す二日間 Art Thinking Improbable Workshop」と名付けられたアート思考ワークショップに参加した。主催はサステナブル・イノベーション・ラボ(SIL)だ。SILが奈良、奄美大島、長野、三重など日本の各地域で関係人口を増やし、地域価値を高めるために、アート思考の必要性を感じたことにより実現した。参加者は奈良市役所職員、奄美大島の地域活性化に取り組む方、そして、日本地域の価値向上をアートやテクノロジーを用いて行っているネクスト・コモンズラボ(NCL)/ parmita、企業からはダイセルらが参加した。
さて、このアート思考のワークショップは、当コラムでも何度か取り上げているフランス発の「ありえない」を生み出すArt Thinking Improbable(アートシンキング・インプロバブル)だ。2008年にスタートし、13カ国で3000人以上が参加している。日本でも250名ほどがすでに参加している。ちなみにインプロバブル(Improbable)とは日本語で訳すと「ありえない」となる。現状維持のままだと廃れてしまう地域、文化、産業に対して「ありえない」方法で可能性を拡大させていくことを目指すワークショップだ。短期的な最適解を求めるものではなく、人々が問題をどのように捉えるか、認識そのものを変更することに挑戦するものであり、「ありえない」を実現させるために、3つの重要な瞬間(「作る」、「批評」、「披露」)と6つの実践(貢献、逸脱、破壊、漂流、対話、展示)に基づき進めていく。ノンアーティストが参加しても、実績あるメソドロジーを元に進めていくので、作品を生み出すことができる。自分が課題にしていることをテキストやパワーポイント以外の方法で伝える体験は、自治体職員やビジネスパーソンにはとても新鮮な体験となる。そして「メッセージを伝える」ためにアートの力を利用するという視点も芽生えてくる。