「唇噛みしめ」
過去のインタビュー映像を振り返ってみると、よくやっている表情のひとつに、唇を噛みしめる表情があった。厳密には唇を噛むというより、話し終わった後に上下の唇を内側に巻き込み、上下の歯で軽く噛み締めるような表情だ。ぐっと唇を閉じている表情とも言える。今回はそれがいつにも増して多かった。やるせない、悔しい気持ちの表れなのかと思いきや、「違うのではないか」と気づいた理由は、以前からネガティブな心情ではないコンテクストの時にも、この表情をよくしていたからだ。
これは、唇を口の内側に入れ込み、他者から見えないように口内で乾いてしまった唇を舐めて潤しているのだ。唇が見える状態でその部分を舐めると、舌が見える。舌が見える表情は愉快さにもつながるが、それには大きな笑顔が不可欠。そうでないと、艶かしさを連想させる。通常体の外部に出ていないパーツが表に出るのを見ると、人はドキッとするからだ。また、それらの質感は湿った状態であるということも加わり、一層淫靡になる。スポーツという場に求められる明るくクリーンで明快なイメージとは異なる。
ということで、上下の唇を合わせて噛み締めるようにすることで、グッと強い意志を示すように見せながら、唇を湿らせていたのだろうとわかった。そして、その数が通常時よりも多いことは、やはり緊張による口や唇の乾燥が非常に強くあったということを示している。
フィラー
そして、いつもはそれほど気にならなかったフィラーも強めかつ多かった。フィラーとは、言葉の間に挟まれる「えー」「あの」「えーと」などのこと。これらは、緊張しているときに増える傾向がある。特に言葉を選ぶ際に迷いや不安が生じ、その結果としてフィラーが使用される。
今回の会見のように、緊張が強いられるうえに話せることが制限され、話す言葉に気をつけなくてはならないような状況であれば、話す本人は言葉に詰まりやすくなり、思考も滑らかに進まなくなる。また、緊張が高まることで、話の流れや言葉のリズムが乱れやすくなる。それを保つためにフィラーの使用頻度が高まるのだ。