サティア・ナデラが3代目CEOに就任して10年。クラウド事業の拡充やAI(人工知能)領域への注力など先見性ある経営ビジョンが奏功し、マイクロソフトは時価総額首位に返り咲いた。そのナデラがCMO(最高マーケティング責任者)に抜擢したのが、沼本健だ。そのキャリアは順風満帆に見えるが、道のりは華やかさからはほど遠いものだったという。先行きを見通すのが難しい今、沼本が考える、グローバルに活躍するために必要な力とは。
今年1月、マイクロソフトの時価総額が3兆ドルを突破した。3兆ドル突破はアップルに続いて2社目であり、3月1日時点でアップルを引き離して堂々の世界首位である。
世界で最も価値が高い企業となったマイクロソフトには、サティア・ナデラCEOをはじめとした7人の「CXO」がいる。まさに世界を動かす7人だが、そのひとりに日本人がいる。エグゼクティブバイスプレジデント兼CMO(チーフマーケティングオフィサー)の沼本健だ。
実は沼本は前年10月にCMOに就任したばかり。それまでコマーシャルチームCMOとして法人ビジネスのマーケティングを担当していたが、コンシューマー製品も含めて全体のマーケティングを見る立場になった。
最高幹部のひとりになって見える風景はどのように変わったのか。マイクロソフトが世界11カ国で展開するイベント「Microsoft AI Tour」のために来日した沼本にそう尋ねると、こう答えた。「見るべき製品分野が広くなっただけかというと、そんなことはない。コンシューマーマーケティングにはコマーシャルと違う部分があります。日々新しい仕事に慣れながら、『これは少し違うな』『なるほど、こういうこともあるのか』と勉強しています」
具体的に何を新しく学んでいるのか。これまでとの違いを聞くと、沼本は笑って首を振る。「コマーシャルとコンシューマーで違いはありますが、そこにフォーカスするのは本質的ではありません。『これはコマーシャルの製品ですか。それともコンシューマーの製品ですか』という見方ではなく、私たちはすべてのみなさんにCopilot(マイクロソフトの生成AIアプリ)を使っていただきたい。Copilotの底上げをすることで、コンシューマーだろうとコマーシャルだろうとビジネスのすそ野が広がります」
一例が、今年のダボス会議開催に合わせて発表されたCopilot Proのローンチだ。もともとCopilotには、誰でも使える無料版と、法人向けのCopilot for Microsoft 365があった。しかし、Copilot for Microsoft 365の契約は300席以上という条件があり、高機能のCopilotを席数に関係なく使いたいユーザーのニーズを満たすには至らなかった。そこでローンチされたのが、一席から契約できる Copilot Proだった。