キャリア

2024.04.30 13:30

寿司事業で世界に羽ばたく令和ドリームの体現者。寿司大将──北野唯我「未来の職業道」ファイル

北野:今も寿司大将と人材会社経営という二足のわらじを履いています。両者の共通点は?

蛎田:どちらもマッチングビジネスです。寿司屋はネタとお客さんを結んでいます。同じマグロを仕入れても「いかにおいしく食べてもらうか」は演出作業です。転職エージェントがするのは「いかに求人を魅力的に感じてもらうか」。同じ仕事でも人によって伝え方を変えることが必要ですから。

北野:わかりやすい!

蛎田:寿司大将をやっていて「すべての仕事はそんなに変わりがない」と思うようになりました。僕はいきなり寿司屋を開いたけれど、これまでやってきた経験がめちゃくちゃ生かせていますよ。

シャリのレシピを決めるにしても、今はレシピサイトで調べればだいたい分量がわかります。酢も塩も何万種類もあるわけじゃないから、いくつか集めてみて自分で配合して考えていけばいい。

新しいビジネスをやるときもそうですよね。似た事業をやっている会社をバーッと調べて、上場していたらIR情報を読んで、とか。まったく同じです。

北野:自ら市場に行っていると聞き、経営者としてすごいと思いました。信用を大切にしている。

蛎田:開いている5日間(豊洲市場は基本的に水曜と日曜が休場)のうち、週3は通っています。市場へ仕入れに行くのは楽しいので、好きなんです。でも、朝早いのが面倒くさいこともあるじゃないですか。だからこそ、仕事が忙しいときやテレビに出た後などは絶対に行きます。すると仲卸さんに印象付けられて「かきださん、忙しいのに今朝もお疲れさん!」なんて声をかけてもらえる。戦略的営業です。

結局、寿司屋の仕事に「飛び道具」がないことも実感しました。続けるなら地道にやるしかない。そうすることでしか行き着かない場所がある。めちゃくちゃセンスが良くてパッと寿司は握れても、仲卸さんとの関係を市場に1回行っただけで築くことなんて無理ですから。

目指すのは世界的なブランド

北野:寿司大将になり、自分のなかで変化した部分はありますか?

蛎田:メディアに登場する会社経営者は、これからの構想を大風呂敷で広げますよね。僕は人材紹介のビジネスではそれができなかった。でも、かっぽう着姿がうまくハマった寿司大将の姿なら「未来は月で寿司を握る」という夢も口に出せます。風呂敷を広げておけば、いつか本当になるかもしれません。
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文=神吉弘邦(本文)北野唯我 (コラム)写真=桑嶋 維

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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