自由に使える資金は、企業幹部から革新と構造改革とリスクをともなう挑戦の責務を取り払った。とりわけ、日銀が「異次元の量的緩和」を開始した2013年以降はそれが顕著だ。それは結果として、おそらく地球史上最大規模の企業助成政策になっている。
タイミングは、これ以上ないほど最悪だった。日銀が日本経済界に円を注ぎこみ、自己満足に浸れるようにしていた裏では、中国が急速に競争力を高めていた。
安倍晋三元首相が10年前に開始した改革プロセスにより、日本経済は、対中国で好位置につくことができたとする見方がある。実際はそうではない。
確かに、安倍政権によるコーポレートガバナンス改革は、日経平均株価を史上最高値に押し上げるのに貢献してきた。だが、投資家がいうように「日本が復活」しているのなら、日銀は、金を注ぎこむ点滴チューブを引き抜いているだろう。だが、そうなってはいない。
こうした諸々の状況から、通貨分野のストラテジストは、円がじきに1ドル160円まで下落するのではないかと考えている。最近、日銀の幹部と面会したときに、彼は「我々の日本版ペソはお気に召しましたか?(How are you liking our Japanese peso?)」という軽口をたたいた。
冗談はさておき、問うべき本当の問いは、習が率いる中国がそれをお気に召すかどうかだ。おそらく、お気に召すことはあまりないだろう。