「毎朝出社のときに現場を見ていました。ただ、工期の最初の3分の2は地下工事だから外から様子がわからない。計画通りですが、早く建屋が建たないかとやきもきしていました」
西川が竣工を待ち焦がれたのは、Shibuya Sakura Stageの開業が、渋谷が国際都市間競争を勝ち抜く切り札になりうるからだ。
国際都市間競争で街に求められる機能はふたつある。ひとつは「産業育成」。渋谷はデジタルコンテンツ系のスタートアップ企業が集積するが、産学連携の「学」が弱かった。
「私たちは、MITとの産学連携プログラムに参加。Shibuya Sakura Stageには、MITとともに開発したアクセラレータープログラムを提供する施設を置く予定です」
もうひとつは「都市観光」だ。渋谷はスクランブル交差点が世界的にも人気だが、何度も訪れてもらえる街になるにはさらなるエンターテインメントが必要だ。「発表できる段階にない」と言うが、「インテリジェンスあふれる若者が情報発信する企画」を検討中だという。
Shibuya Sakura Stageに期待を寄せる理由はほかにもある。社長に就任したのは20年4月。コロナ禍が本格化する最中だった。先を見通せないなか、中期経営計画の策定を延期し、かわりに2030年を見据えた長期ビジョンを発表。そのビジョンに基づいて、東急ハンズ(現ハンズ)や東急プラザ銀座を売却するなど構造改革を断行。再開発は元から計画していたものではあるが、Shibuya Sakura Stageの竣工は構造改革がひと段落して反転攻勢に移る狼煙になったのだ。