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宇宙

2024.05.04 13:30

「今、隣にイーロンが……」宇宙葬を叶えた1本の電話

葛西智子|SPACE NTK 代表取締役

2022年4月、米宇宙企業SpaceXのロケットが、宇宙に向けて飛び立った。人とペット計10体の遺骨を載せて──。これが、葛西智子が代表を務めるSPACE NTK社の「宇宙葬」の第1弾となった。ロケットは地球の上空約500キロメートルの軌道を数年間、周回する。

「パウダー状にした遺骨を納めたカプセルを人工衛星に搭載。専用アプリから現在地を確認できます。周回後は大気圏に突入。燃え尽きて流れ星になり、スペースデブリになる心配もありません」

30年にわたり葬儀業界に身を置き、「狭いお墓の中ではなく自然に返してあげたい」という遺族の思いを感じてきた。新たな葬儀を模索するなかで思い出したのが、少女時代に母に聞いた「人は亡くなったら星になる」の言葉。「宇宙で散骨を」と思い立ち、JAXAに問い合わせる。反応はにべもなかったが、「アメリカの会社なら......」とのひと言に「その手があったか! と」(葛西)。

18年、米国で開催された国際宇宙開発会議で宇宙葬についてプレゼン。その会場でSpaceXの日本人技術者と意気投合し、やり取りを重ねる。2年後、頭金が用意できたと彼に伝えると、すぐに国際電話がかかってきた。相手はイーロン・マスクの代理人。電話口の横でマスク本人が話す声が聞こえた。

「アメリカにも宇宙散骨を行う企業はありましたが、運べる遺骨はわずか。マスク氏は『世界初のことをやろう。SpaceXのロケットなら1人分の遺骨を打ち上げられる』と」

打ち上げ1回あたり1億5000万円(当時)でロケット使用契約を結ぶ。まずは利益よりも打ち上げを成功させて信頼を得たいと、宇宙葬の費用は55万円~に設定した。

無縁墓が社会問題化するなか、葛西のもとには寺の住職や納骨堂からも問い合わせが相次ぐ。2回目の打ち上げを今年10月に控え、すでに13体の遺骨が出発を待っている。「星になりたいと願う世界中の人の思いに応えたい」。日本発の宇宙サービス業の起業家として夢は尽きず、月面散骨も計画中だ。


かさい・ともこ◎1960年、東京都生まれ。大手葬儀会社勤務を経て独立し、葬儀のトータルプロデュースを手がける。2017年、SPACE NTKを設立。米SpaceXと直接交渉の末、22年、宇宙散骨を目的とした人工衛星の打ち上げに世界初成功。

文 =音部美穂 撮影=帆足宗洋(AVGVST)

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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