当日の式典から、自身が卒業生でもある米田あゆ氏の祝辞全文を紹介する。
米田氏は東大医学部卒業生で、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の宇宙飛行士候補者候補でもある。昨年は「Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023」にも選出された。
渋谷のスクランブル交差点で感じた「不思議さ」
新入生の皆様、ご家族および関係者の皆様、この度はご入学おめでとうございます。
2024年元日に能登半島を中心に起こった震災で被災された方々に心よりお見舞いを申し上げると共に、現地で支援や復興に当たられている方々に敬意を表します。そして、そのような年の始まりの中で勉学を続け、入学試験に合格された皆様に心よりお祝い申し上げます。
私は11年前、皆さんと同じようにここ武道館で入学式に参加しました。新たなスタートを前に期待で胸を膨らませて皆さん側の席に座っていたことが、ついこの間のように思い出されます。駒場での2年間を経て医学部に進学し、研修医の時にはコロナ禍の緊急事態を医療現場で経験しました。皆さんも、あの困難な時期を乗り越えられ、本日こうしてお目にかかれたことを大変嬉しく思います。
外科所属の医師として働いたのち、ちょうど1年前からJAXA宇宙飛行士候補者として訓練に励んでいます。宇宙を目指し、一歩目を歩み始めたばかりの立場だからこそ、私が考えていることを大学生として第一歩を踏み出す皆さんにお伝えできれば幸いです。
さて、入学して印象的だった第一歩と言いますと、駒場キャンパスからほど近い渋谷のスクランブル交差点にはじめて足を踏み入れた時のことを思い出します。行き交う人の多さに驚き、今日は一体何のお祭り?と思ったくらいです。大勢の人がぶつからないように少しずつ歩みを調整してすり抜けていく。年齢・性別・職業の異なる人々がその瞬間、その場所を偶然にも共有し、自分もその一員である不思議さを交差点の中で感じました。世界で最も混雑する交差点と言われ、一回の青信号で多い時には3000人が行き交うようです。今日この武道館に集う新入生の皆さんとほぼ同じ人数です。
しかし、ここにいる3000人は数字としては同じでも、交差点での3000人とは意味が異なります。交差点ではその瞬間に場所を共有するだけですが、皆さん3000人は、これから大学生活の中で交流し、時にはぶつかることがあっても相互に高め合って、一生の仲間となっていくはずだからです。