アジア

2024.04.15 11:00

中国に「EV関税引き上げ」をちらつかせ自制を求める米財務長官

安井克至
イエレンのEVなどの生産自制の要請は、おそらく何の成果も生まないだろう。中国の習近平国家主席と李強首相は、EV生産における中国の優位性は、人工知能(AI)、素材(レアアースなど)、水素燃料などにおける優位性と並んで経済計画の柱であることを明確に示している。

大きな注目されるかたちで、習や李はこれらの目標を官僚だけでなく国民にも説明し、直近では毎年恒例の両会(全国人民代表大会と中国人民政治協商会議)でも説明した。イエレンの要求に屈すれば、表明している経済戦略が揺らぐ。また、習と李の国における、そしてより重要なことに中国共産党内での権威に傷がつく。

中国が生産を自制しなくても、米国が関税引き上げの発動を控える可能性はある。バイデン政権はこれまでも、経済的、外交的な脅威を回避してきた。だが今回はそうはならないだろう。米国はちらつかせているEV関税引き上げを実行することになりそうだ。

すでにかなりの反中感情を示している議会を通過させるのは容易だろう。そうなれば欧州連合(EU)と足並みがそろうことになるかもしれない。EUは中国製のEVに関税を課すことを検討している。欧州市場にあふれている中国製のEVに中国政府が不当な補助金を出しているという欧州各国の不満を受けての動きだ。米国が関税を引き上げない中で欧州が行動を起こせば、北米市場は中国のEV販売の標的となる。

バイデン政権がいま関税引き上げに踏み切ることには政治的な動機もある。11月の大統領選で対抗馬となるドナルド・トランプは、選挙に勝てば関税を課すとすでに公言している。そのため、いまバイデンが関税を引き上げれば中国貿易は選挙の争点にならなくなる。

こうしたことを踏まえても、イエレンに自制を約束をすることで関税引き上げを回避することは中国にとって良い戦略であるように思われる。たとえ、習をはじめとする指導部が約束を守るつもりがないにしてもだ。中国がそうした上辺だけの戦略を取るのは初めてではないだろう。 賢明な戦略であろうとなかろうと、見せかけだけの姿勢は本質を無視するものであり、米政府が中国製EVへの関税引き上げへと突き進む可能性は高い。

forbes.com 原文

翻訳=溝口慈子

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