食&酒

2024.05.16 14:15

「⽇本旅行でこれだけは⾷べるな」から逆転、イタリア人が今ナポリタンに注目

Getty Images

Getty Images

慶應義塾大学でイタリア語講師も務める長谷川悠里による「イタリア通信」 から以下、転載で紹介する。長谷川氏はイタリアの高校・大学・大学院で教育を受けて育ち、現在、「エルゴン・ジャパン」でイタリアの⽼舗ブランドとのビジネス展開を手がける起業家でもある。

ナポリ出⾝カリスマシェフが頭を抱える「ナポリタン」の存在

日本で人気の料理「スパゲッティナポリタン」。実は日本独自の創作料理であることは周知の事実として知られています。ただ、近年はイタリアでもその特異な存在が知られるようになりました。イタリアの⼈気テレビ番組「MasterChef Italia」では、ナポリ出⾝のカリスマシェフ・カンナバッチュオーロ氏が、初めてそのレシピを知り、イタリア料理とあまりにかけ離れた内容に頭を抱える姿が放映されています!
advertisement

ナポリタンの調味料は、完熟トマトを煮詰めたものに、砂糖や塩、酢、スパイスなどを加える“ケチャップ”です。日本では人気のこのケチャップ。この調味料自体が、そもそもイタリアではなく、アメリカの調味料であり、イタリア料理とルーツを交えません。そのためイタリア料理にケチャップはご法度であることも広く知られています。

「トマトソース vsナポリタン」~実はどちらもルーツは○○に⁉~

ケチャップではなく、イタリア人にとっての大切な存在、「トマトソース」。そのルーツを紐解いてみます。

⼈類史上はじめてトマトソースが登場するのは、ナポリの宮廷で執事を務めたアントニオ・ラティーニの名著『最先端の給仕⻑』(1692年)のレシピ内です。ラティーニという⼈物は、5歳で孤児となったにもかかわらず、裸⼀貫で若くして宮廷給仕⻑まで上り詰めた“すご腕天才料理⼈”です。

ラティーニはイタリア料理界にとって、“予言者”ような存在。まだトマトが一般的に食用にもなっていない時代に、将来トマトソースが、イタリア料理の要の存在となることを予言していました。
advertisement

そのトマトソースレシピとは「トマトを炭⽕でローストして、⽪をむき細切れにし、みじん切りの⽟ねぎ、唐⾟⼦、タイム、塩、酢と味付けする」というもの。「炭⽕でロースト」という部分がさすが本格的ですね!

その後トマトソースパスタが普及したのは、この100年後の19世紀初頭。イタリア⼀般社会に根付いたのは意外に遅かったのです。



そもそもトマトは⼤航海時代に、“新世界”南⽶からスペイン船を通してスペイン⼈から持ち込まれたもの。実はケチャップと同じく、トマトソースのルーツもアメリカ⼤陸にあり。

ケチャップはイタリア料理と関連しないものの、トマトソースと起源を同じくし、辿った歴史が異なる“いとこ同⼠”なのでした。

イタリア⼈が戦々恐々の「ナポリタン」に変化の兆し。⽇伊の架け橋となるか。

イタリアからの訪⽇観光客は、常に成⻑率の上位にあり、⽇本はイタリア⼈にとって⼤⼈気の観光地です。そのぶん⽇本情報誌やWEB情報も急増中。

なかでも話題となっているのが、“ナポリのスパゲッティ”と日本で命名されている「スパゲッティナポリタン」です。ただし⽇本旅⾏の際の注意事項として「ナポリ料理とは関係ないケチャップとベーコンのパスタなので、⾒かけても⾷べないよう」といった警告がしばしばされています。

しかし同時に、実際に⾷べた新しい物好きの若年層を中⼼に「意外と美味しい」という再認識の記事も散⾒されます。

さらに著名メディア『エスクァイア イタリア版』でも「わたしたちに感動を与える、⽇本とイタリアの架け橋のようなパスタ」という再評価の記事が発表されました。将来はもしかしたら、⽇本を訪れる外国⼈のあいだで「ナポリタン」は「隠れ⼈気イタリアン料理」として語り継がれることになるかもしれませんね。

【後記】

16世紀当時は、トマトは異世界から来た新種の⾷べ物で、医師が慎重に扱うべき毒性も疑われる果実でした。それから約200年以上かけてようやく⼈々から受け⼊れられるようになり、いまでは「トマトが⾚くなると医者が⻘くなる」とまで⾔われています。

トマトだけでも8000種類以上あるといわれており、世界にはまだまだ、⽇本⼈の⾒たこともない果実がたくさん存在します。拒否から始まっても、好奇⼼から受容へと移り⾏く様が⼈々の⼼情なので、将来、何がブームになるかはわかりません。日本とイタリアをつなぐ架け橋として、今後のナポリタンの存在も⾒守っていきたいですね。
 

長谷川悠里(はせがわ・ゆり)エルゴン・ジャパン代表取締役。慶応義塾大学非常勤講師。イタリア ボローニャ国立大学卒業。ミラノ国立大学大学院修了。司馬遼太郎奨励賞。10代半ばでイタリアへ渡り、学生時代に起業。2018年イタリアで50年の歴史を持つグローバル・コスメティックブランド「eLGON」の日本国内での正規直営店を運営するエルゴン・ジャパン設立。女性起業家コンサルタントも務める。著書に『ダンテの遺言』(朝日新聞出版)ほか。

タグ:

advertisement

ForbesBrandVoice

人気記事