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2024.04.23 20:00

利他的な「進化圧」で思いを1本の糸に紡ぐ〜志村彰洋(イニシアティブデザイナー)<電通グループで働くネクスト・クリエイターの肖像#10>

日本国内の電通グループ約160社で構成される「dentsu Japan」から、ネクスト・クリエイターの目覚ましい仕事を紹介していく連載企画。今回は、「イニシアティブデザイン」という手法で未来にポジティブなインパクトを遺そうとしている志村彰洋が登場。Forbes JAPAN Web編集長の谷本有香が、彼の「『進化圧』を求める思いの深さ」に迫る。


人間には「食欲」「睡眠欲」「性欲」という3大欲求がある。

電通の第7マーケティング局未来シナリオコンサルティング部で事業開発ディレクターを務める志村彰洋は、「人間には3大欲求のほかに4番目の欲求として『動欲』がある」と考える。

「動欲」があるからこそ、人間は成長し、進化を遂げることができるというのが持論だ。

「動欲」、そして「超域」によって受ける「進化圧」

谷本有香(以下、谷本):志村さんは「動欲」「超域」「進化圧」といったオリジナルワードを保有しているとうかがっています。「動欲」とは文字どおり、動きたい欲求であり、元の場所にいたくない欲求であり、そこから「超越」、「進化圧」へと連関していくと——。

志村彰洋(以下、志村):そうですね。「動欲」によって現在地・現領域から離れ、「超域」すればするほど、人間は新たな進化を遂げるための圧力=「進化圧」を受けることができます。「進化圧」とは、子どものころに誰もが経験する、新しい景色の連続による成長圧力と同等のものです。

谷本:「超域」したい。「進化圧」を受けたい。そうした思いが、これまで志村さんを衝き動かしてきたわけですね。

志村:大学・大学院時代は開放環境科学を専攻し、情報通信工学に没頭していました。当初は無線通信を研究していたのですが、そこから「超域」して可視光通信(Li-Fi)の研究へと舵を切り、企業などを巻き込みながら可視光通信コンソーシアムをつくり、電波法の対象外だったので新たな世界のルールメイキングにも励んでいました。

谷本:単に新しいものについて学ぶだけでなく、その社会実装を志し、同志を集めてオープンイノベーションの形態を創出しながら、未見の世界へと続く道筋に誰よりも情熱的にヘッドライトを照射する——。2020年代の今でこそ当たり前のように感じられる新規事業開発のリーディングメソッドを、2000年代の初頭に学生の立場で志村さんは実践していたのですね。

志村:「超域」した先にある「進化圧」。それは自分にとって「生きる糧」にもなってきたわけですが、周囲の人々にとっては「新しい与件(物事を前に進めるために必要なもの、新しい条件)」になればいいと思っています。利他的に新しい与件を提示したい。コレクティブインパクトでなければ為し得ない課題とぶつかりたい。さまざまなステークホルダーの思いを1本の糸に紡いでいきたい。そのように考えながら、日々の仕事に取り組んでいます。

谷本:2024年を迎えた現在、志村さんの「超域」は、どのようなレベルに達しているのでしょうか。

志村:私は大学院を卒業した2006年に電通に入社して以来、先進技術・システム開発のコンサルティングなどに従事してきました。電波通信や可視光通信を研究していた学生時代から、ずっとデジタルの世界に軸足を置いてきたわけです。しかし、0/1というデジタルの領域には縛られたくないという思いがいつしか湧いてきたので(笑)、現在は「超域」しています。自分にとっての新領域のひとつは、生物学的な思想です。0/1に対応するもので言うと、A/T/G/C。デジタルからゲノムへ、自分のなかから生まれる「動欲」に従って動いてきました。

志村彰洋 電通の第7マーケティング局未来シナリオコンサルティング部

志村彰洋 電通の第7マーケティング局未来シナリオコンサルティング部

イニシアティブデザインで世界を変えていく

谷本:今、志村さんは「動欲」や「超域」による「進化圧」といった考え方も集約しながら、「イニシアティブデザイン」という手法を用いて、お仕事をされていますね。この「イニシアティブデザイン」が、どのようなものか教えてください。

志村:イニシアティブデザインとは、言い換えるなら、利他的な推進力のある人を集めること。ひとつひとつの矢印が小さかったり、少し向きが違っていたりする人たちを大きな矢印にまとめることにより、社会に対して意義のあるイニシアティブを発揮していくことです。先ほど、「利他的に新しい与件を提示したい」と言いましたが、大きな矢印にまとまることを拒むのが利己的な考え方です。利他の心で他者よりも先に動いている人たちを集めていきたいと考えています。

谷本:そのイニシアティブデザインの考え方がいかんなく発揮された仕事の実例を教えてください。

志村:そのひとつが、国内初の「バクテリアゲノムアーキテクトプロジェクト」です。このプロジェクトは、東京工業大学生命理工学院の研究グループ、東工大発ベンチャーのLogomixなどと共同で2020年から推進してきました。プラスチック、薬、燃料といったさまざまな物質生産に用いられている産業微生物の代表種「大腸菌」の人工ゲノム構築を行うなど、新バイオ産業創出に貢献する細胞ゲノム構築技術の成熟化を進めることがプロジェクトの使命です。そして今、私が携わり、微生物の能力を最大限に発揮させることによって世界を変えていくプロジェクトは、日本にとどまらず、海外へ、宇宙へと「超域」を遂げている状況です。アラブ首長国連邦では、同国政府主導のもと2117年までに自国民100万人を火星に移住させる「Mars2117」という名称のプロジェクトが推進中です。この構想そのものが物理的にも思想的にも「超域」している案件だと言えるでしょう。まさに自分が幼少期に戻ったような激しい「進化圧」を受けることができるプロジェクトです。火星を人間が住めるような環境に変えていくためには、自己増殖することでいろいろな材料や食べ物などに成り代わる人工微生物が必要になります。こうしたプロジェクトのなか、「地球規模、宇宙規模で、子孫に何を遺すか」について考え、まさに究極の利他的思考で「進化圧」と真摯に向き合っています。

谷本有香 Forbes JAPAN Web編集長

谷本有香 Forbes JAPAN Web編集長

人間が人間ならではの強みとして大切にすべきもの

谷本:これまでデジタルとゲノムの双方の可能性を追求してきた志村さんにお聞きしたいことがあります。デジタルと生物、あるいはAIと人間の間にある最大の違いは何であるとお考えになりますか?

志村:これから先、人間が人間ならではの強みとして大切にしなければならないのは「コミュニケーション」と「インテグリティ(高潔さ・誠実さ)」ではないでしょうか。そして、デジタルと私たち生物の最大の違いは「継代するか・しないか」だと考えています。人間の命は有限ですが、継代していきます。しかし、その有限性のなかで、あるいは継代していくなかで進化を遂げることができます。死ぬことがプロトコルに入っている。そのこと自体が、人間の凄さだと思いますね。

谷本:それでは、志村さんが属しているdentsu Japanというグループの強みや凄みはどこにあると思われますか?

志村:いい意味で一貫性がないということですかね。dentsu Japanにいる人間それぞれのパーソナリティの差分が非常に大きい。それでいて、ひとつのプロジェクトにおいて一枚岩になれる。自分が大学院を卒業して電通という会社を選んだのも、一貫性のなさに惹かれたからです。先輩社員たちとの面談において「電通とはどのような会社ですか?」といろいろな人に尋ねてみたら、その答えがまったく異なっていました。「これは、おもしろい会社だ!」と思いましたね。「これは、会社というか、ひとつの社会だ!」とも思いました。

谷本:最後に、志村さんが未来展望として見据えているものを教えてください。

志村:これから先は、dentsu Japanで一緒に仕事をしている若い人たちが、私が見たこともない与件を提示してくれるようになったらいいなと思っています。きちんとインパクトをもって与件を示すことで、私に「進化圧」を与えてほしいですね。しかし、もっと本心で言うのなら、私自身に「進化圧」がもたらされなくてもいいと思っているのです。若い人たちの後に続く、継代していく子どもたちが新しい与件によって進化していくことを願っています。まあ、私自身は同じところにとどまっているのがイヤなので、これから先も命が尽きるそのときまで、自然と体が動いていくことへと勝手に「超域」していくでしょう。


現在地から遠いところにある存在、あるいは概念。その現在地/基軸からの距離が遠ければ遠いほど、すなわち「超域」すればするほど、目覚ましい「進化圧」を受けることができる。今、その「進化圧」こそが志村の生きる糧になっている。

そして、志村は自身が考案した「イニシアティブデザイン」の考え方が継代していくことで、この世界が富や幸福といったポジティブなもので満たされ続けることを願っている。


しむら・あきひろ◎2006年に電通に入社して以来、国策事業・スマートシティーのプロデュース、先進技術・システム開発のコンサルティングなどに従事。イニシアティブデザインやゲノムシンキングを基軸として、新規事業開発や国際標準化活動も推進してきた。そのほか、コンピューターサイエンスや数理モデルに関する国際会議、講演、審査員、論文掲載多数。IEC国際標準化策定エキスパート、IWRIS最優秀論文賞など受賞歴多数。

Promoted by dentsu Japan / text by Kiyoto Kuniryo photographs by Shuji Goto edited by Akio Takashiro

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