そんな中、Borderless AI(ボーダーレスAI)というスタートアップが米国時間3月21日、ステルスから脱却し、2700万ドル(約40億円)のシード資金調達を実施したことを発表した。同社は、外国人労働者のオンボーディングや給与支払いといった人事業務を自動化するAIエージェントのAlberni(アルバーニ)を提供している。アルバーニを使用することで、企業は雇用契約書の作成などの業務に費やす時間を、従来の数日から数分に短縮することができるという。
創業メンバーのショーン・アガーワルは、Lyft(リフト)の取締役で同社の初期投資家でもあり、Trulia(トゥルーリア)やペイパル、イーベイの財務担当重役を務めた経歴を持つ。彼は、ウィルソン・クロスと共にボーダーレスAIを設立した。同社は、AIモデル開発企業Cohere(コヒア)と提携し、コヒアの大規模言語モデル(LLM)に世界中の雇用法に関する独自データを組み合わせている。
一般的なチャットボットが、「スウェーデンで雇用契約書を作成する際のルールはどうなっているのか?」といった質問に答えることしかできないのに対し、アルバーニは契約書を作成してくれるだけでなく、世界中での新入社員に係る事務処理や経費精算処理といったタスクをこなすことができる。「グローバルでのオンボーディングや給与支払いなどの半自動化されたタスクの多くを解決する上で、AIは非常に有効だ」とクロスは話す。
今回のラウンドは、Susquehanna(サスケハナ)とLVMH会長のベルナール・アルノーが設立したAglaé Ventures(アグレベンチャーズ)が主導した。クロスによると、調達した資金は新たな地域への進出やAI開発費に充当するという。ボーダーレスAIの主な顧客は、カナダや北欧、英国などで従業員を採用している中小規模のテック企業だ。
特化型AIツールの台頭
近年は、法律事務所向けのAIモデルを提供する「Harvey」や、カスタマーサービスに特化したAIモデルを提供する「Sierra」など、特定分野に特化したバーティカル型AIツールへの投資が増加している。クロスによると、ボーダーレスAIの従業員数は約30人で、170ヵ国で事業を展開しているという。ボーダーレスAIは、「Velocity Global」や「Deel」のような、より広範な人事サービスを提供するこの分野の大手とも競合することになる。最近では、リモートワークから出社へ移行する企業が増加すると同時に、技術職の雇用が冷え込んでいる。求人情報サイト、インディードのデータによると、2月の技術職の求人はパンデミック前の水準を25%下回り、過去3ヵ月で2.7%減少したという。