今は、コロナ禍を経てバーチャルで得られないものに対する欲求が高まっていますし、仕組みと建築とが全て合致した場所をきちんと提案していこうという丁寧な時代に突入していると思います。建築家もより初期の計画段階から関わるようになってきています。
山峰:どこから介入できるかで全く変わってきますよね。言われた通りにやるだけだと、クライアントが目指しているミッションに辿り着かないということも往々にしてありますし。だからこそ、スキームを描ける段階から関わる。それが、難局に直面したときに、遡って確認できる引き出しを多く持てることにもつながると思います。
ローカルイシューに寄り添う日本の強さ
永山:昨年、グッドデザイン賞に審査副委員長として携わるにあたり、グッドデザイン賞は海外のアワードと何が違うのか、世界から見てどのような立ち位置にあり、どのような可能性を持っているのかを再考していて、海外審査員の一人が言っていたことがしっくりきました。グッドデザイン賞では、エントリー作品にグローバルイシュー、例えば気候変動や貧困問題などの問題に言及している作品は少なく、主にローカルイシュー、ミクロな問題に対してとても丁寧な応答をしている、と。それこそが、おそらく日本の特徴なんです。同じく昨年の「第18回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展」の日本館のO+Hの大西麻貴さんの作品でも同様で、どこの国もグローバルイシューに言及していたのに対し、日本館は吉阪隆正が設計した日本館という場を丁寧に再考し、その場に新しいコミュニティを創出するという内容で。むしろ際立っていて、すごく面白かった。
山峰:僕も見に行きましたが、非常に丁寧な展示でしたよね。
永山:身の丈に合ったミクロなイシューに本気で向き合っていくと、いずれはグローバルイシューを解く鍵になる……というところまで私たち意識していくことで、日本が世界に向けてより発信していくことができるのではないかと思います。
山峰:無意識的な丁寧さや性質がひとつひとつ集まることで、何か大きな力になるまでにはまだ至っておらず、それが課題ではありますよね。ただ、アートにしても建築にしても、いま過渡期にあり、何かと何かを競い合っているだけでは世の中が変わらないということがようやくわかった。
ではどうするかと言うと、やはり小さなアクションの先にある未来を共有している人たちがつながっていき、“小波”のようなムーブメントを起こしていく。そうしたグラスルーツのような育て方を、今、アートも建築も考えているんだなと、今日のお話の中で実感しました。僕はそこに、日本の可能性があると思います。