これは都市の制度設計にも言えることで、日本は禁止事項を増やしていく国ですよね。以前、松戸でまちづくりをやっている寺井元一さんから聞いたのですが、彼が渋谷の仕事をやるにあたり、区の規制を調べたら信じられない数があったと。面白い街にしたいんだったら、規制を取っ払った開放区をつくることはどうかと提案していたのが、刺激的でした。
永山:今の日本は管理社会で、管理する側がルールを決めるじゃないですか。すると管理される側はとてつもなく窮屈になってしまう。昨年、グッドデザイン賞で大賞をとった千葉県八代市の老人デイサービスセンター「52間の縁側」はその逆です。
一般的にこうした施設は高齢者徘徊を避けるための施錠がされますが、そこはオープンな場所で地域の人たちが出入り自由なんです。しっかり閉ざされた門塀がなく、入居者も出入りできてしまいます。そのために、普段から地域の人々と良い関係を築き、「さっき〇〇さんが外に出ていたけど大丈夫なの?」と声をかけてもらえるような仕組みをつくっているんです。管理側のルールで縛るのではなく、そこにいる人たちの幸せをルールの基軸にしています。
これはまちのアート事業も同じ。管理されすぎた街にアーティストは寄りつきません。商業空間に関しても、面白いお店を誘致しようと思ったら、端的に言えば家賃を下げることです。設計していると、広さや形など、どうしても売りにくい空間が生まれます。そういう“余剰空間”を戦略的にデザインし、低い賃料でインキュベーションスペースとしてこれから挑戦しようとしている店舗に貸すということもできるはず。それで街が面白くなればwin-winです。裏を表にするような長期目線でのルールづくりが必要ですね。
山峰:今のお話を聞きながら、アジリティ(機敏性)、レジリエンス(回復力)、ケア、ウェルビーイングという言葉が浮かびました。アジリティのある人が大勢いる状態がレジリエンスのある社会で、その状態では、継続的なケアができる。そしてそれがウェルビーイングというか、幸福につながっていくのではないかと。
建築とビジネス
山峰:今回僕らがアドバイザリーボードとして関わらせていただいているのはArt & Business Projectですが、ArchitectureとBusinessの関係性って、今はどうなんですか?永山:建築とビジネスは直結していますよね。資本が投下され、場を作って、事業が展開される。切っても切れない関係です。そこに最近、価値観の変化を感じています。例えばビルをつくる場合、建築家としては豊かさを設計する上で、テラスやグリーンエリアなどいわゆる「売れない空間」を増やしたくなるのですが、コロナ禍前は、大体削られてしまう。それが今は、そういった余剰空間も大事にする風潮になってきています。