今月、トロイオンスあたり2300ドルの史上最高値を突破した金価格は、ここ1カ月でなんと25%も上昇している。
そして、この金価格の史上最高値の更新は、不思議なことに、リスク資産とされる株式やビットコインなどの史上最高値の更新とタイミングが重なっている。
金価格の高騰と同時に、コストコによる金地金のオンライン販売も話題になっている。ロティサリーチキンを買うには直接店舗に足を運ばなければならないが、トイレットペーパーの隣に置かれた約2000ドルの金地金はオンラインでも購入可能だ。
コストコ会員が金を買うと、同社のロイヤリティプログラムのおかげでキャッシュバックが受けられるため、コストコが販売する金の延べ棒を投資の対象とすることは驚くほど理にかなっている。そのため、倉庫店の金の延べ棒は通常数時間以内に売り切れてしまう。
エドワード・ケリーといったウェルズ・ファーゴのアナリストは、コストコの金地金販売について「そろそろ注目すべき時だ」と述べた上で、同社にとっては「賢明な動き」ではあるが、金地金が原価に近い価格で販売されていることを考えると、コストコ全体の収益性には大きな影響はないと見ている。
そもそも、なぜ金は急騰しているのか?
セブンスレポート創業者のトム・エッセイは、昨年末に始まった金価格の急騰について、米ドルが価値を失い、金利低下への期待が後退する中、投資家が新たな資金の避難場所として注目したためと説明。加えて、今年になって取り沙汰されるようになったインフレの長期化への懸念から、さらに上昇に拍車がかかったと説明する。コストコマニアだけでなく、実際には機関投資家や中央銀行、特に中国の投資家や銀行が、急増する金需要の大部分を牽引している。中国をはじめとする主に非西洋諸国の投資家は、景気後退シナリオに対するヘッジを図ると同時に、米ドルへの依存度を下げようとしているのだ。
LPLファイナンシャルでチーフエコノミストを務めるジェフリー・ローチは、米国で3月の消費者物価指数が発表され、インフレ率が予想よりも悪化したことを受け、「金市場の値動きは、インフレ圧力が連邦準備制度理事会(FRB)が望むよりも長引く可能性があることを示唆している」とコメントした。
従来の常識では、金は景気後退にともなう株式や債券の損失から身を守るためにポートフォリオに組み入れられる安全資産とされてきた。しかし、現状、株価は記録的なバリュエーションで取引されているからこそ、今回の金価格の高騰は奇妙なのだ。実際、専門家たちは、米国は景気サイクルとして繰り返される本格的な景気後退を回避できたのではないかと見ている。
今回の金価格の高騰が株式や暗号資産の好調なリターンと同時に起きたことは、投資家が直面している混乱した環境を浮き彫りにしている。金利の急上昇により株価が下がるというような長年信じられてきた常識は、少なくとも今の状況には当てはまっていないように見える。
株式や債券などとは異なり、金は通貨として、また富を示すものとして何世紀にもわたって使用されてきた歴史がある。その価値を市場が認識することによって、金の価格も押し上げられているのかもしれない。
(forbes.com原文)