台湾メディアによれば、中国の漁船が2月14日、台湾の巡視艇に衝突して転覆し、船員2人が死亡した。3月14日には台湾が金門島周辺に設定した禁止・制限水域で、台湾側の取り締まりから逃走した中国漁船が沈没した。中国側は2月の事件を受けて、海上パトロールの強化を宣言。3月15日には中国海警局の船舶4隻が、台湾の禁止・制限水域に進入した。中国側が3月18日に救助した金門島の男性遭難者が台湾軍人だったとして、中国が台湾に謝罪を要求する騒ぎも起きた。
中国は今、何を考えているのか。陸上自衛隊中部方面総監を務めた山下裕貴・千葉科学大客員教授は「武力を使わない統一戦術です」と語る。中国海警局の船舶は3月15日、金門島周辺に設定された制限・禁止区域の南側を横断した。「金門島と台湾の間の海域を封鎖し、双方の連絡や物資の往来をいつでも断ち切ることができるとアピールしたかったのでしょう」(山下氏)。
一方、山下氏によれば、金門島は台湾有事の際に極めて守りにくい場所だ。「台湾からの補給兵站線が長いため、有事になれば中国軍によって遮断され、守備部隊は孤立するでしょう。状況によっては、24時間以内に陥落する可能性があります」(同氏)。金門島の市民は、半世紀以上、台湾に属してきたため、共産主義の中国に抵抗感がある一方、中国による経済面などで恩恵を受けた影響で、台湾本島の人々よりは中国に親近感を持つ側面も否定できないという。
それでも、中国は力押しはしない。台湾の新政権の出方によっては、圧力弁として、金門島周辺の制限・禁止水域への進入を続ける。同時に、金門島の人々との経済・文化面の交流を深化させ、台湾との分離を図ることで、徐々に中国の影響力を強めていくつもりだろう。山下氏は「金門島に対して中国が軍事作戦を行うことは、国際社会の大きな反発を招くでしょう」と語る。有事の際、台湾が金門島から対岸の中国・厦門市などを砲撃することもできるが、そんなことをすれば、圧倒的な戦力を持つ中国軍によって、たちまち制圧されることになりかねない。「金門島の人々が身を守るためには、有事にも抵抗せずに、じっとしているしかないのです」(同氏)