アジア

2024.04.11 09:00

南シナ海で抑止力を失う米国 対中防衛のカギは

2024年3月5日、南シナ海のセカンド・トーマス礁(フィリピン名:アユンギン礁)の駐留部隊への補給に向かうフィリピン沿岸警備隊の巡視船の進路を妨害する中国海警局の船(Ezra Acayan/Getty Images)

中国政府の長年の「趣味」は、米国の国際法違反や乱用を非難することだ。中国が国際法を守ろうとせず、国連海洋法条約に基づく南シナ海仲裁判断を無視している以上、いちいち相手にする必要はない。だが「中国的な国際法」をかざす北京の野望をこれまで阻んできた米国の抑止力と国際的な安全保障構造は、残念ながら崩壊しつつある。

中国は2009年、南シナ海に独自の境界線「九段線」を引いた地図を国際機関に提出し、領有権を声高に主張しはじめた。オランダ・ハーグの常設仲裁裁判所(PCA)は2016年、中国側の主張には根拠がないと判断したが、中国は攻勢を一段と強めており、ベトナムやフィリピンが対米関係を深める要因となっている。

昨年3月にフィリピンと中国が展開した瀬戸際外交は、南シナ海近隣諸国にとって防衛力強化が喫緊の課題であることを浮き彫りにした。今やフィリピンと中国は、世界最大の紛争地域で武装した危険なチキンゲームを演じている。中国と定期的に衝突しているのはフィリピンだけではない。ベトナム、マレーシア、ブルネイ、台湾も中国に対抗し、南シナ海をめぐる争奪戦は激化している。米国がその抑止力と決意を前面に押し出さないかぎり、中国による南シナ海諸国の領土保全に対する侵害は続き、地域の危険は高まる一方だろう。

リンゼイ・フォード国防次官補代理(南・東南アジア担当)は昨年9月、米下院外交委員会で、中国によるベトナム漁船への嫌がらせが日常的に繰り返されていると証言軍用レーザーの使用、米軍機への危険な妨害行為、人工島の軍事要塞化など、数々の問題を指摘した。

南シナ海は製造業とハイテク産業の世界貿易に欠かせない海上交通の大動脈であり、年間数兆ドルに上る取引が危機にさらされている。また、日本の貿易の最大40%、韓国の貿易の最大90%が南シナ海を通過しているため、トラブルの多発は米同盟国に直接の損害をもたらす。

紅海危機が示すように、南シナ海が欧米からどれだけ離れていようとも、海運が混乱すれば影響は免れない。紛争によってサプライチェーンが崩壊すれば、大きなインフレショックが起こるだろう。すべてはつながっているのだ。
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翻訳・編集=荻原藤緒

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