暗号資産

2024.04.09 10:15

「AIとクリプトの融合」で起きる3つのイノベーション

「クリプトは分散的勢力であり、AIは中央集権的勢力」と表現する投資家ピーター・ティール。両者の融合は何をもたらすか(Photo by Marco Bello/Getty Images)

(2)AIエージェントの経済活動インフラとしてのクリプト

LLM(大規模言語モデル)の驚異的な進化によって、AIエージェントが自律的に経済活動を行う将来が見え始めている。AIエージェントは、LLMなどのAIモデルをベースに、人間の細かな指示なしに自律的に意思決定して仕事を完遂し、それによって報酬を得ることが可能だ。今後、世の中の経済主体の重要な割合を占めていくことが想定されている。
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例えば、特定の市場調査を行うAIエージェント、翻訳を行うAIエージェント、コーディングを行うAIエージェントなど、その応用範囲は広い。これが現実世界でスケールするためには、これらのAIエージェントが効率的に報酬を受け取れる仕組みが不可欠となる。しかし、AIエージェントはそれ自体が銀行口座をもてるわけではない。

そこで、クリプトがAIエージェントの決済インフラとなりうることが注目されている。クリプトはインターネットネイティブな決済手段だからこそ、AIモデルとの親和性も高い。また、ブロックチェーンを基盤とした分散型ID(DID)によってAIエージェントのアイデンティティも特定できる。AIエージェントのマーケットプレイスが世界で広がるなか、経済活動インフラとしてのクリプトの役割が注視されている。

(3)クリプトによるAIの信頼性と安全性の向上

現在のAIは中央集権的なモデルが基盤となっているため、さまざまな副次的な問題を抱えている。例えば、元となるデータが中央集権的に管理されているため、SPOF(単一障害点)の安全性リスクがある。また、モデルにインプットされたデータの出所がわからず、そのデータの信頼性も不明瞭なことが多い。

信頼性の低いデータを元にしたモデルは当然ながらバイアスを含む信頼性の低いアウトプットを生み出すことになり、ユーザーはそれを検証する手段がない状況である。これはAIの普及の大きな妨げとなりかねない。クリプトの分散技術を活用することで、データ管理のインフラを分散化して単一障害点を取り除き、また元データを追跡・検証可能にしてモデルの信頼性を高めることができる。
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これら3つは現在進行中の「AIとクリプトの交差点」におけるイノベーションのほんの一部である。英ロンドンに拠点を置くWeb3に特化したVC「Outlier Ventures(アウトライアー・ベンチャーズ)」は、AIとクリプトの融合によるイノベーションを下記のような短期〜長期の時間軸で表している。これによると、AIエージェントのクリプト利用はまだ長期的な話だが、AIデータインフラの分散化はより短期的なオポチュニティ(好機)であると位置付けている。
AIとクリプトが交差するイノベーションマップ Source: Outlier Ventures “AI X CRYPTO”

AIとクリプトが交差するイノベーションマップ Source: Outlier Ventures “AI X CRYPTO”

シリコンバレーの著名投資家ピーター・ティールは、AIとクリプトの対比について以下のように語ったことがある。

クリプトは分散的勢力であり、AIは中央集権的勢力だ。イデオロギー的に言えば、クリプトは自由至上主義(リバタリアン)であり、AIは共産主義(コミュニスト)だ。

現代の2つの大きな技術トレンドがともに有機的に交わって、より安全で信頼のおけるイノベーションが生まれることが期待される。

吉川絵美 = 文

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