女性従業員が活躍できる場をつくろうと立ち上げたスキンケア事業が急成長。沖縄を愛する県外出身社長が、社員を輝かせるために実践し続けていることとは。
「僕は沖縄に救われた。沖縄発世界ブランドをつくろうとしているのも、島に恩返しをしたいからです」
スキンケアブランド「首里石鹸」を展開するコーカスの緒方教介は力強くそう話した。2016年に誕生した首里石鹸は瞬く間に人気が広がり、コロナ禍で沖縄の観光客が減ったなか、3年で売り上げを3倍に。海外での出店も進行中で、まさに沖縄発の世界ブランドになろうとしている。
緒方は真っ黒な日焼け顔に、Tシャツ短パンがよく似合うが、実は県外出身だ。東京で通販雑誌の編集長を務めていたが、息つく暇もない生活に疲弊。友人から新規で立ち上がる沖縄の広告代理店で一緒に働かないかと誘われ、移住を決めた。
すぐに沖縄が好きになった。しかし、半年たたずに失職。食うために始めたのは、観光客相手に路上で土産ものを販売する“道売り”だった。
「道売りにも縄張りはあります。ただ、沖縄の人は寛容で、旅行代稼ぎでミサンガを売るバックパッカーがいても目くじらを立てません。雨の後、公設市場で働く女性が売れ残りの商品を見て、『今日は売れないね。おばあが1個もっていこうか』と買ってくれたこともあった。ここが自分の居場所だと感じました」
ただ、道売りの商売は不安定だ。そんなときに縁があり、あるコールセンターの代表を務めることに。9年後、独立して立ち上げた会社がコーカスだった。
コーカスのコールセンター事業はユニークだ。通常、コールセンターは時間当たりの対応件数など効率性に関する指標で運営される。一方、コーカスは入電のうちお礼を言われた率を示す「ありがとう率」をKPIに設定。それを高めるため、むしろ非効率である長電話を推奨している。
「道売り時代、観光客の前にハイビスカスの花を投げて足を止めさせ、『どこから来たの?』『沖縄で何食べた?』と話しかけていました。商品をアピールするより仲良くなったほうが購買率は高いし、『また来たよ』とリピーターになってくれます。コールセンターのクライアントも、お客様に継続してもらったほうがいい」
ありがとう率の向上は、クライアントのファン獲得以外にも大きな効果をもたらした。お客様に感謝されることでオペレーターの働きがいが増し、離職率が下がったのだ。実はコーカスは社内保育所を設立したり、365日稼働が常識の業界で土日の対応を減らすなど、オペレーターの働きやすさ向上にも力を入れてきた。「働く人が楽しくないと、お客様に笑顔で対応できない」と考える緒方にとって、社員の幸せは利益と同じくらい大事なことだった。