ビジネス

2024.04.15

地元の老舗企業が牽引新たな魅力を発掘する街の「リメイク」

今、地方の老舗企業が中心となり、その地域ごと変化させる動きが起こっている。街の「リメイク」がもたらす効果とは? マクアケ創業者による連載第40回。


最近、立て続けに地域でイノベーションを起こしている人たちに出会った。リーダーシップをとっているのは、地元では有名な老舗企業の社長たち。まるで街ごと「リメイク」するように、その地域の価値を大きく変えて注目を集めている。ひとつ目のケースを知ったのは富山県を訪れたときだった。東岩瀬地域に蔵を構える老舗の蔵元「桝田酒造店」で日本酒づくり体験をさせてもらうために伺ったのだが、その社長である桝田隆一郎氏の東岩瀬の街を丸ごと変革させていく壮大なアクションの積み重ねに、驚きを通り越し感激した。

桝田酒造店は1893年の創業。ドン ペリニヨンの元醸造最高責任者であるリシャール・ジョフロワ氏が日本酒を本気でつくるために富山に立ち上げ話題になった「白岩酒造」の創立パートナーでもある。

江戸時代から北前船の交易で栄えた東岩瀬地域は、港の近代化が進むとともに過疎化が進み、空き家も増え始めたそうだ。ただ、地域には歴史ある名家の建物や古民家も所々にあり、風情が残る。それらを残し、さらに人が集まる街に変えようと桝田氏が旗を振り、街にどんどんコンテンツを生み出していった。時間をかけてできる限り建物を木造風の景観にし、風情のある街並みに変えていくというハード面の変革に始まり、そこにフランスのレストランガイド本『ゴ・エ・ミヨ』にも紹介された「御料理 ふじ居」など数々のハイレベルな料理店を誘致。

さらにガラス工芸の芸術家や鍛鉄作家のアトリエ、クラフトビールのブルワリーなどもサポートし、芸術や食をこの伝統ある街に肉付けていった。こうした街づくりの噂をキャッチした食通や著名人、旅のインフルエンサーなどもこの街を訪れるようになり、街のブランドはどんどん上がっていった。

そして今も止まることなく、街の建物というハード面をさらに増強し続け、街を面白くしてくれるさまざまな領域のチャレンジャーを呼び込んでいる。桝田酒造店という代々続く街の名士が、ダイナミックに街ごとリメイクしていくこの歩みにより、東岩瀬は訪れるたびに進化していそうで目が離せない。そんな街になっている。
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文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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