大谷選手元通訳の賭博事件報道に見る 日本人国際弁護士の脆弱な見識

Brian van der Brug / Los Angeles Times via Getty Images

米大リーグ(MLB)、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平選手の通訳を務めていた水原一平氏の違法賭博問題を取り上げた朝のワイドショーで、カリフォルニア州弁護士を名乗る日本人弁護士が「球団オーナーがFBI長官に大谷選手の潔白を嘆願すれば解決できる」という発言した。同じく「国際弁護士」を名乗る専門家が、的外れの発言をテレビ放送を介して繰り返している惨状を観ていると、改めて日本には国際的に通用するメディアやエンタテイメント、スポーツ産業の専門弁護士がほとんどいないことに落胆せざるを得ない。

国際弁護士ってなに?

そもそも、国際弁護士と言う正式な資格は無く、本人や事務所が海外の弁護士資格または日本と海外の双方の弁護士資格を所持している人物をそのように称しているに過ぎない。日本の資格が無くても海外で資格を取得し、その国や州の弁護士事務所で原則3年以上実務を行ったことを証明、そして法務大臣の承認が通れば「外国法事務弁護士」として登録を申請できる。それから日本弁護士連合会の指導・監督を受けることを条件に、限定された範囲で資格所有国法に基づいた業務を有償で行うことが出来る。

しかし、こうした国際弁護士や外国法事務弁護士の中で、メディア・エンタテイメント、スポーツ産業の専門知識を備え持つ人材はほぼ皆無だ。十分な見識を持たぬまま、大谷の元通訳に関する事件がカリフォルニア州での違法賭博に関与するというだけで、同州の弁護士資格を所持することを根拠に、取材する報道側にも疑念を抱かざるを得ない。

では、なぜ日本人弁護士で、こうした専門知識を持った人材が乏しいのだろうか?まずは日本で司法試験に合格し、大手弁護士事務所に入所した若手弁護士がいかにして米国の弁護士資格を得ているかを解明していく。

外国人は1年で米国の弁護士資格が取得できる!?

米国のロウスクールと称される法科大学院は通常3年制で、法学博士号を取得する課程が組まれている。単位履修が過酷なため多くの学生が学業不振で留年、退学を迫られることも多い。入学後もふるいに掛けられながら全ての単位を履修し、裁判所や検察での実修やボランティアとして法務助手を務め、卒業する。さらにその後、各州によって実施される「バー・エグザム」と称される法曹資格試験に合格しなければ弁護士としての活動は許されない。試験は暗記と思考力の双方に優れていなければ合格できず、特に受験人口が大きいニューヨーク州とカリフォルニア州の試験が厳しいとされている。

しかし、日本人弁護士を含む、海外ですでに法曹資格を所持していたり、大学の法学部を卒業している外国人に対しては、3年制の法学博士(JD)課程ではなく、LLM(Master of Lawsの省略で法学修士を指す)と称される1年制の法学修士課程が設けられており、米国法の理解を深め、外国法との比較分析に重点を置いた内容となっている。さらに、LLM修了者には米国の全ての州でバー・エグザムの受験資格が付与されるため、多くの日本人弁護士は所属事務所の経済的支援を得てLLMを取得し、ニューヨーク州やカリフォルニア州の資格を取ったうえで、現地の所属事務所で数年間の研修を経て帰国。弁護士と外国法事務弁護士の双方の資格を持つことにより、国際弁護士と名乗ることが普遍的である。
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