エコシステム

2024.04.04 09:15

2年以内に事業売却せよ 1300社が熱視線「事前注文式M&A」

これらの事業には、3つの共通点がある。まず、ビジネスモデルに「SaaS (Software as a Service)」を採用していること。次に、限られた特定の層を顧客ターゲットにしていること、そして、海外での先行事例があることだ。波多野が続ける。
 
「SaaSは、毎月一定額の課金システムのため、収益を見通すことができ、また解約率の予想も見通せます。市場はサービスが溢れ、飽和状態にありますが、特定の課題をもった人たちに向けたサービスの余地はまだまだ存在しています。そのうえで海外の先行事例があるものを選ぶと、彼らの成長軌道を追ってサービスのアップデートや顧客の開拓をしてくことができます」
 
まず顧客企業へのヒアリングで挙がった事業アイデアであることを前提としながら、この3つのポイントと交差した事業を構想していくのだという。
 
「売却の交渉をする際も、海外事例をもとにして、どこまで潜在的なユーザーを獲得できているのか、次に取り組むべき課題は何か、数年後にどのくらいの収益が見込めるかといったことを説明することで、買い手企業に納得感が生まれ、社内稟議も通りやすくなります」


 
売却金額は、過去事例では数千万円から最高でも3億円まで。大企業からすれば、手頃な価格と言えるかもしれない。
 
M&Aで課題の一つとなるPMI(買収後の統合)は、Waveland Xにとっては専門分野。これまで親会社のWaveland Groupで手がけてきた膨大なM&Aコンサル経験を活かし、スムーズな事業譲渡を行っている。

買い手候補、いなくなる可能性は?

ただ、気になるのは、事業開始から売却までの2年間のうちに、買い手候補がいなくなるという可能性はないのかということだ。それに対して波多野は次のように話す。
 
「自社で新規事業を動かす経験を積みたいという声は多く、マーケット環境が変わっても需要がすぐになくなるわけではないんです。同様のサービスが出てきても、海外事例をもとに追加開発をする、同じ顧客層が使えるサービスにピボットする、日本進出を目指す海外企業に売却するなど、事業部単位での運営だからこそ機動力があります」
 
事業を構想する段階で多くの企業にヒアリングを行っているうえ、Waveland Groupがもつ顧客とのコネクションがあるため、最終的に買収先が見つからないという事態は、いまのところ起きていないという。
 
事業アイデアの注文を事前に受け、2年以内に売却する。そして、成長戦略が描ける事業を構築する。買い手企業の不安材料を排除したこの手法は、国内M&A市場をさらに加速させていきそうだ。

文=露原直人 撮影=片山祐輔

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