教育

2024.04.10 13:30

人間関係力 5つの力

第5は「自我マネジメント力」。これは、自分の心の中の「小さなエゴ」の動きを見つめることができる力である。人間関係が下手な人は、しばしば「自分が見えていない」という状態になるが、その「自分」とは「自我」(エゴ)に他ならない。この「エゴ」は、対人関係において、しばしば厄介な動きをするが、されど、我々は、それを捨てたり、消したりすることはできない。唯一できることは、それを「ただ静かに見つめる」ことであるが、そのとき、不思議なほど、エゴの厄介な動きは鎮まっていく。そして、悩ましく思っていた対人関係も、好転していく。

以上述べた「5つの力」が、筆者が永年、実社会の現場で体験的に学んできた、人間関係力の要諦であるが、現在、筆者が経営を預かっている学園においても、1万名の学生に、実社会に出る前の学びとして、この「5つの力」を身につけるカリキュラムを提供している。これは、「プライベート・リフレクションの技法」と呼ぶものであるが、学生がチーム活動を行った後、各自が自身の心の動きを振り返り、この5つの視点から内省を行うものである。

このカリキュラムにおいて、筆者が嬉しい驚きを感じたのは、心の瑞々しさを失っていない若い学生たちは、素直にこのリフレクションを実践し、ときに、感銘を受けるほど、深い内省を語ることである。

この「リフレクションの技法」を身につけた学生たちは、実社会に出た後も、職場での日々の人間関係の中で、悩みながらも、自身の心を見つめ、内省を続け、成長をめざして歩み続けていくだろう。

その道の彼方に、「人間力」という世界がある。その道へと歩み出す彼らの後姿は、輝いている。


田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8300名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。

文=田坂広志

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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田坂広志の「深き思索、静かな気づき」

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