以上述べた「5つの力」が、筆者が永年、実社会の現場で体験的に学んできた、人間関係力の要諦であるが、現在、筆者が経営を預かっている学園においても、1万名の学生に、実社会に出る前の学びとして、この「5つの力」を身につけるカリキュラムを提供している。これは、「プライベート・リフレクションの技法」と呼ぶものであるが、学生がチーム活動を行った後、各自が自身の心の動きを振り返り、この5つの視点から内省を行うものである。
このカリキュラムにおいて、筆者が嬉しい驚きを感じたのは、心の瑞々しさを失っていない若い学生たちは、素直にこのリフレクションを実践し、ときに、感銘を受けるほど、深い内省を語ることである。
この「リフレクションの技法」を身につけた学生たちは、実社会に出た後も、職場での日々の人間関係の中で、悩みながらも、自身の心を見つめ、内省を続け、成長をめざして歩み続けていくだろう。
その道の彼方に、「人間力」という世界がある。その道へと歩み出す彼らの後姿は、輝いている。
田坂広志◎東京大学卒業。工学博士。米国バテル記念研究所研究員、日本総合研究所取締役を経て、現在、21世紀アカデメイア学長。多摩大学大学院名誉教授。世界経済フォーラム(ダボス会議)専門家会議元メンバー。全国8300名の経営者やリーダーが集う田坂塾塾長。著書は『人類の未来を語る』『教養を磨く』など100冊余。